学校を出ながら、真理は裕美に、

「ママ、ごめんなさい。私が勝手に大事な物を持ち出したのが悪かったの」

「大丈夫よ。大体、そんなに大事な物でもないし、勝手に持って行くように言ったのは私だし。それにしても先生のあの態度、全く、ひどいったらないわね。真理は大丈夫?」

「私は平気。何も悪いことしてないもん」

(大したものね。立派に育っているわ。ちゃんと、自分の正しいことを冷静に主張できるなんて。私だったら、どうしてたかしら。ただ、腹を立てるだけで、何も言えずに涙が出てきてしまい、逆にその姿が、自分が悪いことをしたことを後悔しているように見られることになるんじゃないかしら)と思う裕美であった。

その日の夜、家での夫婦の会話。

裕美は怒りながら、英介に不満を漏らした。

「全く、なんて学校でしょう。こんなハンカチくらいで。だから、公立は嫌なのよ。私の学校だったら、これくらいの物なら誰でも持ってるわよ」

「だから、公立にしたんだよ。そうやって、物の価値が分かるようになるんじゃないかな。今回のことは、腹は立つけど、いい経験になったんじゃないか」

英介は、本当はここで、「『木綿のハンカチーフ』って唄があったじゃないか、それにしておけば、『もめん』のじゃないか」なんてダジャレを思いついて、言いたかったのだが、今は、裕美がかなり怒っている様子なので、ダジャレを言い出すことができなかった。

「真理は傷ついてるわ。今度、このハンカチつなげて袋にして、スリッパ入れにして持たせてやろうかしら」

「にせ物だと思うだけだよ。とにかく、どっかで安いハンカチを買っておかなきゃな。ハンカチだけじゃなく、持ち物には気をつけないと。安い物をそろえることに気をつけるのも、なかなか大変だな」

「セーターだって、ブラウスだって、ちゃんと、スーパーでそろえるようにしているのよ。下着だって、ブランド物は使えないから、そろえるのが大変なのよ」

「どうして、下着まで。そんなところまで見ないだろ」

「突然、健康診断あったら困るし、体育で着替える時だって、最近は、子供でも結構、ブランド知ってる子もいるから、気が抜けないのよ」

「そういうもんか。俺のころは、下着のメーカーまで見るやつなんていなかったけどなあ。だいたい、下着作ってるのなんて、足袋のメーカーくらいしかなかった気もするけどな」

「いつの話よ。時代が違うのよ。今は、子供もブランドを気にする時代なのよ」