次の日、佑介は、学校で作文を読んでいる。父親の仕事についてである。
「僕のお父さんは、サラリーマンです。毎日、忙しくて、なかなか話すこともできません。朝起きると、もう出かけていて、帰りは僕が寝たあとということも多くて、ゆっくり一緒にいることはめったにありません。休みの日も仕事で家にいないことが多いです。でも、一緒の時はとっても優しいし、仕事も頑張っていてかっこいいです。僕はそんなパパが大好きです」と言っている。
放課時間になり、クラスで金持ちを気取っている麻尾晋平が近づいてくる。
「お前んちのお父さんって、確か、電機会社だったよな」
「そうだよ。SSEだよ」
「やっぱりそうか。そこの製品、うちで作ってるんだぜ」
「へえー、すごいね」
「だから、お前んちのお父さんがサラリーマンやって、うちの製品を売ってるってことだな。ほら、この電話もそうだぜ」と自慢してくる。
「その電話は見たことがある、確かに、パパも持ってるやつだ」
「そうだろ、これ、うちで作ってんだ」
麻尾の工場は、SSEの下請けで部品を作っているだけなのだが、子供から見れば、こういうことになるのだろう。
「すごいね。だから、晋平君ちはお金持ちなんだ。うらやましいよ」
「将来、うちで雇ってやってもいいぜ。ちゃんと働くならな。そういえば、さっき返してもらった算数のテスト、お前、何点だった?」
横から、女の子が、「佑介君は百点に決まってるじゃない。あんたと違って、あったまいいんだから。晋平、あんたは何点なの」
「俺は、いいんだよ、何点でも。工場継ぐだけだからな。勉強なんて必要ないぜ。金持ちは楽だよな。ほらほら、腕時計だぜ、お前ら持ってないだろ」と自慢しながら去っていく。
「あいつ、ほんとにやな奴だよね。いばってばかりで。漢字もろくに読めないくせに。佑介君、偉くなって見返してやりなよ」
「僕は、気にしてないよ。サッカーさえできりゃあ、いいんだよ」