「江藤一人が悪い訳やない。俺もや。俺も密告したんや。赤穂市の教育委員会に電話を掛けて、学区外から二中に通っている生徒が居ると言ったんや」

高倉豊は、自責の念で苦しんでいる江藤詩織を救うために、法的には罪に問われることのない、秘密の暴露を行った。

「何で、どうして、そんなことをしたん?」

江藤詩織は顔から両手を離し、泣き顔を高倉豊の方に向けた。

「江藤のことが好きだったからや! 俺は見てしまったんや。江藤と岡島がキスしているところを。俺はお前らの仲を引き裂いてやりたかったんや。嫉妬や! みにくい嫉妬や!」高倉豊は話しているうちに興奮してきて、最後には絶叫し、泣き出していた。

「私は万引きを見られて。両親が喧嘩ばかりして、家に居たくなかった。いらいらして、どうでもよくなって、悪いことがしてみたくなったんかな。文房具店で手提げの紙袋の中に入れるところを、岡島君に見られて。言うぞって脅された訳じゃなかったんやけど、どうにかして口止めしなきゃいけないって思った。それで公園に呼び出して、好きだと言ってキスした。

その後も定期的に公園に呼び出してキスした。でもだんだん彼は、それだけでは満足しないようになって、彼の方から夜の公園に誘ってくるようになって、胸を触ったりスカートの中に手を入れて足を触ってくるようになって。それが疎ましいと思うようになって。それで教育委員会に密告したの」

江藤詩織も、高倉豊の告白の勢いを借りて、自分が犯してしまった二つの罪に対する動機(言い訳)を早口で捲し立てた。

そのうちの一つは軽微な犯罪で、もう一つは彼女の良心に背く種類のものだったが、江藤詩織にとってはどちらが心の重しになっていただろうか。高倉豊には判別は付かなかった。いずれにせよ、もう彼女は泣いていなかった。

だから江藤詩織の両手は、顔を覆う必要がなくなっていた。必然的に彼女の両手は、両股にそれぞれの手を載せて握り拳を作って泣いている、高倉豊の片手を包み込むことになった。

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