眼因性疲労である事の証明

ここに原因不明の肩こりで困っている人がいたとします。この人に対して視力測定を行い、その結果を踏まえてメガネ補正原則に則って調製した適正なメガネを装用してもらいます。メガネを装用後、数分ないし数十分、あるいは数時間の短時間にその肩こりが改善されたとすれば、メガネを掛けるという純粋に光学的な手段が身体に生理的影響を及ぼしたとみなすことができます。メガネを外せば再び肩こりが始まることから、この現象はメガネレンズが身体的に影響を及ぼした結果、肩こりが改善したことを意味します。

メガネレンズの光学的作用は眼球運動に直接に生理的影響を及ぼしますので、メガネ装用により良くなった肩こりは、眼球運動と関連のある症状であったとみなすことができると思います。このようにメガネ装用により改善する疲労症状を眼因性疲労(眼性疲労)と呼んでいます。

通常屈折補正メガネを掛けると裸眼視力と補正視力との間に視力の差が生じるものです。メガネを装用することで視力が改善したので疲労症状が改善したと考える人が少なからずいますが、疲労症状が改善するには必ずしも視力が良くなることだけが条件ではありません。

メガネを掛ける前の裸眼視力とメガネを装用した補正視力が大きく変わらない場合や、補正視力の方が裸眼視力よりもやや劣るという場合、完全視力に合わせるよりも幾分遠方視力を抑えたメガネの方が改善効果がよく現れることから、遠方視力の良否とは別のものが肩こりの改善と関わりがあるとみなすことができます。

眼科学においては、視力が悪いための焦燥感が眼精疲労の原因になるという記述がありますが、一概にそうとばかりは言えないというのが我々の見解です。明視を得難いための焦燥感が眼精疲労の原因になり得るというのであれば、視力に最も影響を及ぼしやすい近視も眼精疲労の原因となる可能性が考えられます。

我々が行った「眼と健康の実態調査」によって得られた法則性の中から、「純粋な近視は疲れを起こさない良い眼であり、健康な体質を作る」(第一法則性)とする結論によれば、眼因性疲労を起こすものは遠方の視力の良否よりも調節や輻輳に関する視機能上の過労が原因と考えられます。


※眼精疲労と言う名称には、眼性ではなくて眼精という文字が用いられています。精には、こころ、すなわち精神的あるいは心因性という意味が込められているものと思われます。明視を得難いための焦燥感が疲労の原因ともなるのが眼精疲労ですが、眼因性疲労は心因性によらない純粋に眼球運動に因るものとしています。しかし、この呼び方は一般的ではないので、通俗的に用いられる眼精疲労と厳密に分けることはありません。

※メガネ補正原則とは、近視の眼には最高視力の最弱度の凹レンズ、遠視の眼には最高視力の最強度の凸レンズで補正すべしというメガネ合わせの基本のことです。この補正原則は乱視を精密に補正することで達成することができます。補正原則による屈折状態は最弱度の近視状態を呈します。

※前田珍男子博士は視機能上の過労(調節緊張、調節痙攣)を伴う眼を視格異常と呼び、それにより起こる疲労を神経衰弱と呼び、神経衰弱を治療する方法を視格矯正法と名付けています。