「な、なんだ、てぇめぇ! どこの者だ」

年齢はそれなりに重ねているが、うだつの上がらない下っ端だろうか、ズボンのポケットに両手を入れ、眉尻を吊り上げながら顎をしゃくり、自分のなかの闘争本能を高揚させた。その声が闇夜に響いたのか、建物のなかから湧くようにヤクザたちが飛び出してきた。

「ふむ、我か。我はただの通りすがりだが」

「通りすがりだぁ。素人が俺たちに気安く声をかけられると思っているのか、バカヤロー」

「……醜い。言葉があまりにも醜悪。おまえらは世の中の『為』をしたことがあるのか?」

頭のわるそうな下っ端ヤクザは、白い大男の『為』の意味が理解できなかったが、自分たちがわる口を言われていることは敏感に感じ、激昂する。

「コノヤロー、簀す巻きにして海に沈めるぞ!」ヤクザたちが一斉に白い男に飛びかかろうとしたとき、親分が静かに口を開いた。

「御仁、わるいこと言わないから帰りな。こいつら血の気が多いんだ」

「私の質問には答えてくれないのか。ただ人を探しているだけなんだが」

下っ端が手柄を立てようと、親分の言葉に反発した白い大男を下から上、上から下へと舐めるような視線で威嚇する。

「おめぇよ、ヤクザにものを頼むときは礼金もってこいよ。それが常識なんだよ、コノヤロー」

「おまえらは、人に対する思いやりとか、悲しみを感じないのか?」

「思いやり? そんなもんあるか。他人が死のうが生きようが関係ねぇよ」

「おまえらは本当にそれだけで生きているのか?」

「あたりめぇよ、それがヤクザってもんだ」

白い大男はゆっくり腕を組み、静かに目を閉じた。そして、地の底から響いてくるような重く低い声を出した。

「金と暴力にしか価値を見いだせない愚か者どもが。おまえら命を悩んだことがあるのか!」

「命を悩む? くだらねぇ、なにをわけのわからないこと言ってんだ。頭おかしいぞこいつ」

ヤクザたちは白い大男に罵声を浴びせる。

「愚かだ。価値のない人間はいないというが、それは噓で、価値のない人間、つまりおまえらみたいな人間はどこにでもいる。まぁよい、これも仕事だ。おまえら全員死ね。死んでゴキブリにでもなれ」

白い大男が言葉に侮蔑をまとわせ言うと同時に、ヤクザたちは一斉に拳を振り上げ白い服の大男に襲いかかった。

【前回の記事を読む】【小説】「4億円が自分のものになるなら?」に妄想が止まらない…