子猫とボール
コンビニの娘
次の週のことだ。細井洋介は出社してきたが、又しても睡眠不足で頭がはっきりしない様子をしていた。
松野は例の“子猫ちゃん”のことで頭が一杯なのかとからかった。洋介は言った。
「あの娘とSNSのアドレスを交換したのは大失敗だった。あれからのべつまくなしにメッセージを送ってくるんです。一日に何回もピーンっていうあの音、落ち着かないったらありゃしない」
彼女は“親しくなれない”と言ったにもかかわらず毎日、しかも頻繁にメッセージを送ってくるようになった。矛盾しているが本人はその矛盾に気付いていない様子だ。メッセージの中味には感情のムラがあり、彼女の精神状態の不安定さを暗示しているようだ。
ある時は“おはよう”とか、“今学校の宿題をしている”とかどうでもいい他愛のないものである。
だが時には真剣で悲しい内容だ。たとえば――“今日は朝から気分が悪くて起きられず、学校にも行けなかった。医者には貧血だと言われて薬も飲んでいるけれど、そんなもので治る病気じゃないことは私自身が一番よく知っている。布団を被ってじっとしていると、ふっとこのまま誰にも気付かれず死んでしまうんじゃないかと思う。自分が死んでも誰も悲しまないし、世界はそのまま続いて行くんだわ。皆私という存在があったことすら気付かず、喋ったり、笑ったり、映画を見たり、ゲームをしたりして、自分のいない世界がずっとそのまま何事もなかったかのように続いていく。そう思うと悲しくて辛くて布団の中でずっと泣いていた……”
洋介は彼女に同情はしたものの彼自身も頭が重くなり、気分が沈んだ。可哀そうには思うが自分にはどうしてやることも出来ず、気が滅入るばかりだ。