プロローグ

軽い嫉妬心はあった。あったが、それだけのこと。ええ、それだけのことよ。まさか、現在進行形じゃないだろうし……。昔の女の写真を一枚、二十年、いえ三十年、大事に保管していたからといって、わたしは怒らない。智洋には自信があった。

洗濯機が止まった。ベランダに出て、干す。タオルと靴下など。陽射しは弱いが、夕方までには乾くだろう。

あの女性、ミニスカート、たぶん、昔の。昭和四十年代か。テレビかなんかの、昔の日本は、どうだったこうだった的な番組で見たような。だとして、あのひとの十代、ハタチごろ。そりゃ、あったわよね、大恋愛も。あ、でも、十八歳とか十九歳とかだったら浪人中か、だから、恋愛禁止だったのかも。で、あんまり褒められたことではない?

ううん、らしくない。たしかに、四浪までしたんだっけ、東大のために。結果的に受からず諦めたわけだから、あの女性との恋愛が、もしかして、原因だったのか? だとしても……。

やっぱり、そのことを負い目に感じるのは、あのひとらしくない。わたしに、妻に、申し訳ないと考える男ではない、たぶん。だから、納得できない、あんなに動揺した理由。

だって、あれほど熱烈に、激しく、わたしを口説いた情熱家のあのひとらしくないじゃん、そんな、昔の恋愛を隠すなんて……似合わない。大切な写真なら、いいわよ、持っていても、こっそりと。わたしは、責めない。うん、怒らない、本気では。

だけど、あの慌てぶり、あの狼狽は……。