女性のすすり泣く声で目が覚めた。一日に与えられる食事は、コンビニのおにぎり一個かパン一個のみだった。あたしには、このへんから絶対にここから生きて出てやろうという、強い決心が芽生えていた。
女性たちは失禁しそうになると、トイレに連れていってもらえるようだった。部屋に一緒に閉じ込められている女性が、代わっていることに気がついた。それぞれ暴力を受けていて、いたるところに、あざや傷のある女性を見た。泣いたり騒いだりすると、殴られたり蹴られたりした。
あたしは表面的には従順を装っていたので、後ろに縛られていた腕にロープの痕がミミズ腫れになっていたのと、打たれた頬が痛かったぐらいで済んでいた。
あたしの強い思いは、絶対的な決心になった。
(生きてここから出てやろう)
やり残したことを数えて後悔するより、これから先にやり遂げることに対して希望を持ちたい。ここで殺されるようなことがあったら、死んでも死にきれない。激しい頭痛で目が覚めた。
時間の感覚が消えていた。ただわかったことがある。ここにいる男たちは、女性の体が目的ではないらしいということだった。人体実験なのだろうか。薬を混ぜられた液体を、それぞれが飲まされるか注射をされていた。あたしは最初から目立った抵抗をしなかったので、薬を注入される頻度がほかの女性より少なくて済んでいた。あの薬は危険ドラッグというのだろうか。
いつの間にか、体を縛られている物が、ロープからガムテープに変わっていた。両手両脚をガムテープで、きつく縛られて体中が痛かった。男が何人か外へ出ていくのを気配で感じて、部屋の外に聞こえないように、無声音で同じ部屋にいた女性に話しかけてみた。
「ねえ、あなた一緒に逃げない?」
聞こえなかったのだろうか、返事はなかった。薬の影響だろう、寒くはなかったのに、女性はガタガタ震えていた。何度か彼女に声をかけたが、返事は返ってこなかった。人はあまりにも恐怖が強いと、ほかの一切のことを考えられなくなるらしい。
また、あたしのなかに、ここから絶対に逃げるんだという気持ちが、断固として強くなった。ほかの人を助けられるかどうかは、わからない。まず自分が外へ出て、それからだ。
(逃げるっていっても、どうやって?)
とりあえず体力は温存しておこう。あたしはそれから、ますます男に反抗しなくなった。紙コップに入った液体も、黙って飲んだ。非常に嫌だった得体の知れない注射も、抵抗せずにされた。男はあたしを、従順なモルモットだと認識したようだった。観察していると、暴行を受けて傷害を負わされているのは、騒いだり叫んだりしている女だ。