【前回の記事を読む】【小説】少女は「親子の仲を取り持つために」生まれてきた?
結里亜は練習の成果が出て、斜面を横切るように滑る斜滑降も、スキー板を揃えてターンできるようになった。
「結里ちゃん、上達が早いね」
と驚いている恭一に、
「恭一さんの指導のおかげです」
と結里亜は笑顔で言った。
「板を揃えて滑るのは、初心者だとなかなか難しいと思うけどすごいよ。俺の姉ちゃんなんて四、五回スキーに行って、やっとできるようになったんだから」
と恭一が言うので
「じゃあ、私は素質があるのかな」
と結里亜は少し得意気に言った。それから、四人はレストランでお昼を食べた。恭一は、みんなの飲み物を買いに行ったり、食べ終わった器を下げたりとよく動いていた。結里亜がレンタルしたスキー板を返しに行く時も恭一は付き添って運んでくれた。
そんな恭一に結里亜は惹かれていた。それから、恭一と結里亜は何度か食事に行きお付き合いが始まった。
「結里ちゃん、結婚を前提に付き合ってほしい」と恭一。
結里亜は「はい」とうなずいた。
その一年半前、結里亜は三年ほど付き合っていた彼と別れた。
彼の名は、高原光貴、同い年だ。三歳違いの兄がいる。大学を卒業後は機械メーカーで営業の仕事をしていた。話題が豊富で一緒にいると楽しかった。居心地の良い雰囲気を作ってくれる優しい人で結里亜のことを大事にしてくれた。
また、子どもが大好きで、未来の子どものこともよく話した。
「遊園地や公園、いろんなところに連れて行きたいね」と光貴。
「そうだね、一年に二度くらいは旅行にも行きたいね」と結里亜。
「子どもの名前は、男の子だったら自分の名前を一文字取って光がいいな。女の子だったら結里ちゃんの名前から一文字もらって結子かなあ」
いずれは結婚する相手だろうと結里亜は思っていたが、そのタイミングが少しずれていた。
「結婚しよう」
光貴から夜景のきれいな場所でプロポーズをされた。結里亜はうれしかったが、光貴は以前から結婚をしたら仕事を辞めてほしいとも言っていた。結里亜は仕事が楽しくやりがいを感じていたので、もう一、二年は続けたいと思っていた。すぐに結婚したいという光貴。
「考える時間を少しほしい」
と伝え一週間考えた。そして、出した答えは
「今は結婚を考えられない、ごめんなさい」だった。