4 昴揚
今日も授業が終わった。終わったあとというものは、不可思議な昴揚がある。学んだあとの楽しい余韻と、自身の自由がようやく訪れたような気になる。
今日哲学の先生が言っていた
「哲学は何事にも応用し、補助することができますが、あくまでも哲学なのです。すでに在る天然自然には劣るところがあります。芸術はある意味で、その天然自然を模倣した活動とも言えることでしょう。天然自然には自ずから独創性が備わっているものです。また、事実と真実の違いは、事実は人を救えないことによるかもしれません」
と言っていた、ニュアンスがなんだか妙だった。それにも増してあんなことやこんなことも楽しみであるが、今日はサヤカという人間が一体どういう人なのだろうと、また、ぼくたち二人の関係性は一体なんなのであろう……。あれもこれも、まあ、友達の範囲内の出来事ではあるけれど……、そう、そうだ。
エスカレーターを降りていくと、屋内はガラス張りになって見透しがよくなっており、エスカレーターから少し歩けば、自動ドアの出入口がある。そこを出てからは左右前方に花壇があり、風にたゆたう花々が並んで咲きこぼれている。この通りを少し歩けば、右手にすぐ食堂が見えてくる。この食堂の屋外に設置された、学生達がよく集まるベンチが幾つかあるのだが、そのひとつで、ニットと丈の長いスカートのサヤカはスマホをいじりながら待っている。
だんだんスグルが近づいていくと、サヤカも気付いたのか、顔を上げた。
「よお、スグルくん」
「やあ、サヤカさん」
「今日は帰り道に喫茶店でも行きませんか? 」
「それは、いいですね。是非、ご一緒に」
「よろこんで。ふふっ」
「っていつまでやるの、これ」
「ははっ。駅近くの喫茶店は、いつも通り過ぎてるけど、行ったことが無かったから行ってみたいの」
「ああ、あそこ。なんかアンティークな感じのね」
「そうそう可愛いから行ってみたい。いいでしょ? 」
スグルはすぐに首を縦に振り、二人は歩き出した。
しかし、スグルは、少し勇気を出してふざけてみようと思った。サヤカとは、もっと良い関係になれるハズだとか、どこかで思っていたのかもしれない。