【前回の記事を読む】夜間に見知らぬ番号から電話…「不思議なことがあったんです」【小児科医の実録】

きらめく子どもたち

会うたびの涙 悲しみから喜びへ

コウスケ君の話は続きます。

外来で何回も無麻酔で行ったバルーンを用いた食道拡張術が子ども心に辛かったこと、学校の体重測定が始まると体の傷を友達に見られるのがいやで、体の皮を張り替えてもらいたくなったり、生まれ変わったりしたくなったこと。

でもだんだん立ち直り、十キロマラソンを完走できたこと、柔道では投げることではなく綺麗に投げられることで合格をもらったこと、などなど。明るく粘り強くがんばる本来の気性が発揮されてきたようです。

「お父さん、お母さんは元気かい?」

「両親とも還暦になりましたが、元気です!」

「えっ、還暦? そうか、あの時コウスケ君を抱っこしながら泣いていたお母さんは、今のコウスケ君と同じ歳だったんだねえ~~」

「あっそうか! 先生、僕ね、辛かったことも悲しかったこともいっぱいあったけど、今ではこの両親・家族の元でこの病気を持って生まれてきたことを有り難く感じているんです。先生に手術していただいて嬉しく思っています」

う~~ん、この電話は神様から退職小児外科医へのご褒美だったのでしょうか。やりとりが電話だったのが幸いでした、僕の目が潤んだのは見えなかったでしょうから。

電話の最後はコウちゃんからのアドバイスでした。

「先生、僕ね、すごいこと発見したんです。同じ病気の子どもに教えてあげてください。食道にものがつまった時、母に背中を叩いてもらったり、自分で胸を叩いたり、水を吐きながら飲んだりしていたんですが、今ではぴょんぴょん跳ぶとつかえが取れることに気がついたんです。つまったかな、と、怪しい時は席を外して跳ぶんです!」

「え~~? 我慢しないで、また大学病院に来て食道拡げないかい?」

と言ったのですが、

「大丈夫! 跳べばいいんですから」

とのことでした。今後の連絡方法など相談したのち、電話の直前にまさに酒を飲み始めようとしていた宮本の状況を察したコウスケ君は、

「先生、今日はうまいビールを飲んでください。僕は大丈夫ですから」

コウちゃん、ありがとう! その夜はたった二缶のビールで幸せに寝付けたのでした。