彼は「伝の心」というソフトを使って、PCで文章を作成します。ゆっくりと、あかさたな、と進む中で、「か」の所でプッと息を吹くと「か行」で止まる。その次に、かきくけこ、と進むので、「く」の所でプッと息を吹くと「く」で止まる。そうやって一字一字選びながらこの文章を書いてくれました。そしてゲームを始める前に、このメッセージを代読しました。
今から、私の言葉が聞き取れるか、実際に体験してもらいます。言語障害は一人一人全く違いますが、コツは、まず何の話かを考え、聞こえた言葉を聞き返す事。聞こえた言葉を私に伝えてくれれば、私はわからない部分だけ喋れば済みます。一番困るのが無反応です。わからなければ、何度でも聞き返してください。
それから、聞き取りゲームの開始です。「車いすを立ててください」、「車いすを寝かせてください」、「窓際へ連れて行ってください」、「カバンの中にあるタオルを取ってください」と話すのを聞き取って、行動をしてもらいました。
聞き取れずに早とちりする人や、みんなが聞き取れないのに聞き取れる学生がいて驚いたり、とても良い授業になりました。そのシーンだけを見ると、言葉がうまく話せない人を囲んで、みんなが笑っているというとんでもない状態に見えますが、実は笑われているのは正しく聞き取れない学生の方です。
この授業を行うためには多少の勇気が必要でしたが、講師を務めてくれた障害当事者のMさんがユーモアのわかる人だったので、楽しい授業になりました。この会場には段差がありましたが、学生に車いすの両側を4人で持ちあげてもらい、持っても良い箇所や悪い箇所を、ご本人やヘルパーさんとコミュニケーションを取りながら、7段の階段を上り下りしました。
この授業を受けた学生たちは、大会ボランティアを体験する事はできませんでしたが、きっと別の場でこの体験を生かしてくれる事でしょう。