第一章・再会の秋

二〇〇六年九月上旬。残暑厳しい土曜日の夕方、携帯が鳴った。

俺は相木英人。四十五歳。会社員。仕事はシステム開発で深夜残業、休日出勤が当たり前のような生活を行っていた。ひとつ年下の美しい妻(……ということにしておこう)と、かわいい娘が三人いる。

どこにでもいるおやじだが、まだ髪が多いほうなのでかなり若く見られる。腹もまだ出ていない。すこし自慢だ。まだまだ、イケていると自分では思っている、幸せな男だ。

電話の相手は高校時代の同じラグビー部の同級生の(ちょく)からだった。この男、腕力脚力共に異常に強く、握力においては驚異的な数値をたたき出していた。高校時代では「怪物」の異名をとり、大学時代はラグビー部の主将を務めていたほどの強者(つわもの)だ。しかし普段は至って穏やかで友人思いのやさしいやつだ。高校一年のときからの付き合いだから三十年来の親友だ。

「今、皆で飲んどるけど、これから来れんか? 話もあるでよ」(名古屋弁です)

「今、仕事中だで、ダメだわ。なんだ改まって話とは?」 

直とはここしばらく会っていなかった。半年ぶりぐらいか。

「毎月皆で集まってラグビーやっとるけどお前もやらんか?」

「ラグビー?」

「無理。絶対無理だわ。いくつだと思っとる」すぐに口に出た。

「お前、たばこをやめてだいぶ経つし、毎週野球やっとると言っとったがや」

たばこをやめて六年。草野球を始めて三年が経つ。日頃から鍛えてはいる。が、ラグビーとなると話は別だ。簡単に出来るスポーツではない。八十分走れるわけがない。

「スクラム?」

確かに、高校卒業時には、またいつか皆でスクラムを組もうぜと、約束をしたのを覚えている。でも、それは精神的な面で助け合おうという意味と捉えていた。

何年経った?

経ちすぎだろ? 

今さら本当には組めないだろう。やはり無理だ。

「蟹江高校が来年の三月で無くなるのを知っとるか?」 

……何? 初耳だった。 

「海南高校に合併されるらしい。ラグビー部も既に無いとのことだ」

ショックだった。

さすがに出身高校が無くなるとは夢にも思っていなかった。県立高校だぞ。入学したときはまだ新設の高校で、俺たちは六回生だった。高校時代は本当にいろいろなことがあり「青春」をしていたと思う。ほとんどの「連れ」が高校時代の友人だ。その思い出の高校が無くなる?

「閉校になる来年の三月に歴代のラグビー部OBを集めて記念試合をしたいと皆で計画しとるんだ。最後にもう一度あのグラウンドで、試合をやろまい」

高校時代の思い出がよぎった。