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「今日は来てくれてありがとう。ここの料理はお勧めなんです。たまに接待でも使わせてもらっています」

「こちらこそ、ありがとうございます。お料理が楽しみです」

希代美は光彦との待ちに待った初めてのデートに心はずませていた。しかし、会話ははずまなかった。お互いに何を話していいのかわからなかった。

「こんな席で仕事の話も何ですが、先ほど連絡があって、あかねさんが結婚することになったそうです。これで一応は光彦さんの望みも叶えられました。今日から光彦さんは自由の身というわけです」

「本当ですか。ありがとうございます。でも不思議な気持ちです。ホッとしているようで、どこか淋しさもあって。それではお支払いをしないといけないですね」

「その件はまた後で連絡します」

「そうですね。今は食事を楽しみましょう」

その日は最後まで話は盛り上がらなかったが、次回の食事の約束だけは交わし、光彦は希代美をタクシーに乗せた。目の前の現実を最初は信じられなかった。まわりの風景が暗闇に消え、春樹とあかねしか見えなくなった。

春樹の腕にあかねが寄り添っている。二人はわかりあえている恋人同士特有の笑顔で話していた。あかねは自分から光彦を奪い、今度は春樹を奪ったのだ。

(あかねは二度も私の人生をぶち壊した。絶対に許せない)

二人がフレンチレストランへ入るのを見て、淳美は街の雑踏に紛れた。初めはぎこちなかった光彦と希代美の交際は、結婚への道を順調に歩んでいた。

光彦は希代美の優しさに癒されていたし、希代美は光彦の優柔不断さを母性愛で包んでいた。光彦は希代美を大切に扱い、希代美は光彦のために尽くした。

「希代美とはあかねのことを相談したのが始まりだったけど、あんな仕事いつからやっているの?」

「始めたばかりで、光彦さんが最初のお客さんだったの」

希代美は慎重に言葉を選びながら答えた。

「何でも屋って言うのかしら。お友達がやっていて、いい小遣い稼ぎになるからやってみればって勧められて。ダメならダメで無報酬なわけだから問題ないって言われて」

「そうなんだ。でも、なんだか危なっかしい仕事みたいだし、辞めてもらったほうが僕は安心だな」

「もともと本気で始めたわけでもないし。光彦さんがそう言うのなら、すぐにでも辞めるわ」

「ありがとう。僕は希代美が心配なんだ。僕の給料があれば、そんな仕事する必要なんてないだろう」

「それってプロポーズ?」

「イエスって言ってもらえるのならプロポーズってことにしておくよ」

「もちろんイエスに決まっているわ」

希代美は思いどおりの進捗に驚きながらも喜びでいっぱいだった。今度こそ幸せになれる。