お菓子の家の魔女

会場に着いたら、結愛は麻里那と別テーブルに着くように主催者から指示された。友人同士の参加は、どうしても二人でしゃべってしまい、他の参加者と交流が深まらないので、と猪首(いくび)の主催者の男はさらに首をすくめてばつが悪そうに苦笑いしていた。

あまり人見知りしない麻里那と違って、積極的に自分から話題を振れない結愛は、名刺交換をするのが精一杯である。しかも、名刺を見て、『これは私の仕事のプラスにならない』と判断したら作り笑顔もそこそこになってしまう。

しかし、参加者の中には、テレビに何度も出ている結愛のことを知っている者もおり、その中に「飲食店の経営コンサルをしているが、お菓子部門についてコンサルしてもらえないか」という誘いもあった。また、コンビニの企画部の社員もおり、コンビニスイーツプロデュース企画も前向きに検討すると言ってくれた。

「結愛先生、運命の人はいましたか?」

色素の薄い瞳を潤ませながら、麻里那がトイレで結愛に話しかけてきた。

「麻里那先生こそ、白馬の王子様は見つかりましたか?」

お互いに少しお酒が入って、二人は上機嫌でふざけて言葉を交わした。

(りゅう)(いち)さんほどの人はいませんねぇ……」

麻里那はふと我に返ったように、自分を捨てた彼氏のことを懐かしむようにつぶやきつつ、髪を耳に掛けた。恋は盲目とは言うが、いつかその魔法も解けて目が見えるようになる。しかし、ひどい振られ方をした後だと、かえって彼の面影を追ってしまう。結局、美化して積み上げた思い出は、知り合って間もない生身の人間を超えることはない。

「いや、きっと今日見つからなくても、麻里那先生にぴったりの男性はいると思う。私はもう、ビジネスの話がまとまったので、十分。もともと、恋人探そうと思って来たわけじゃないし」

大きな身振りで話す結愛に、麻里那は、帰りは一緒に駅まで行きましょうね、と言いつつ席に戻っていった。足取りは陽気でも、その背中には前の彼氏の影を背負っているようだった。