覚醒
恭子はそのまま朝を迎えた。
彼女は局の配慮で、満員電車での通勤などしなくてもいいよう、局内に部屋をあてがわれていた。その理由を知るのは一部の上層部の人間だけだ。部長クラスにも、あくまでも寮の部屋が空くまでの仮住まいという事になっている。一般局員は局内に住んでいるという事さえ知らない。
局の食堂で朝食を済ませ、本部の廊下を歩いていた時、前方にゲンナイが現れた。恭子を見かけ、近づいて来る。恭子は立ち止まった。ゲンナイと向き合う形になる。ゲンナイは、ポケットからマジックペンの様なモノを取り出して言った。
「これあげる。何時でも飲める水筒だよ。原理としては大気中の水分を吸収して蓄えるから、何時でも何処でも水が飲めるんだ」
それだけ言うと、ゲンナイは立ち去って行った。恭子は、渡された品を見る。危険なモノではなさそうだ。
「よっ」
恭子の肩を叩く者がいた。横に並んだ人物は、猛だった。
「おはよう。今、お前ゲンナイと話してなかったか?」
朝日に白い歯が輝く。猛は爽やかだ。
「はい、これを渡されました」
「……爆発物ではなさそうだな……。これは、何だって?」
「水筒だ、って言っていました」
「……水筒?」
そう言うと、猛は蓋を開けた。その途端、もの凄い勢いの水流が吹き出し、猛の前髪を掠めて天井に穴を開けた。
これを水筒と言われて飲もうとしたら、顔が吹き飛んだのではないか。口に向けていたら、胃か肺が破裂していたかもしれない。やはりゲンナイの品だ。
天井から滴る水で、猛はズブ濡れになった。
「畜生! またゲンナイにやられた!」
猛はゲンナイの品を床に叩きつけ、去って行った。
恭子は廊下に転がるそれを見つめ、そして拾い上げた。ペン型水筒と言われたモノを恭子は胸にしまい、機密本部室へと向かって行った。