だが忘れていたことがあった、盾が剣の中にあるとはいったいどういう意味なのであろうか。疑問を察して卑弥呼が答える。
「盾は剣の持ち主に危険が迫った時に出現し、そして守ってくれます。私自身見た経験はないのですけれど、従来型の盾とは違って、その時々で形を変化させて防御してくれると伝わっていました。つまりこの剣は勝つための徹底した実戦型の武器ということです」
明日美がもう一度剣を抜いてみると、再び青い光が彼女を包み込んでいった。
やがて明日美の表情にまたもや変化が現れ、今度は笑っている。何かがわかった様子で大声をあげて剣を振り回しはじめたのだ。技術秘訣の糸口を掴んだのかもしれない。
「この剣は凄い、握った瞬間に重さを感じなくなるの。それどころか私の動きをアシストしてくれているの。この子も私の心がわかるみたい。姫様、この子に名前を付けてもいいでしょ」
明日美が興奮してそう言った。
卑弥呼によって増幅された明日美の高度な戦闘能力が今起動しだした。
「名前ですか。いいでしょう、好きにしなさい。見込み通りあなたと剣は相性がいいみたいですね。明日美よく聞きなさい。実戦では多くの場合、勝敗が一瞬にして決まります。アニメや時代劇のチャンバラとは違い、その一瞬の判断が生死を分けることとなるのです。そこで必要になるのがあなたの高い戦闘能力と剣の持つ豊富な経験値というわけです。互いの波長を合わせていかなくては宿敵の打倒はかなわないでしょう。
まずはそのための訓練ですね。名前をつけてもらえば剣も喜ぶでしょうし、信頼度が増し、いい考えだと思いますよ。それとですね。言い忘れるところでしたが、その剣をそのままで持ち歩いていると銃刀法違反で検挙されてしまいますよ。あなたの力を使って何かいい方法を考えてちょうだい」
「わっかりましたー。親しみを込めて名前はケンちゃんにしまーす。さあケンちゃん始めるわよ」
早速、意気軒昂に訓練を始めるのであった。剣には心を高揚させる力も持ち合わせていたようだ。巨大な蛍のように青い光が乱舞している光景もまた、見応えがあるようで卑弥呼自身もつい見入ってしまっていた。いつの間にか戻ってきたレオも、その光を目で追うように首をクルクル動かしていた。
見とれているとなにやら後円部から音が聞こえてくるのだ。佳津彦の姿が見えなくなっている。いつの間にか主体部で柩の蓋を戻していたようだった。
「二人ともいいですか。聞いてください。今していることが一段落したら、ここにもう一度集まってください。敵についての講習を行います」
実技と講習、何か資格を取得するための学校の様相を呈してきた。明日美が前方部で進める訓練の、当初は剣を振り回しているにすぎなかった動作が、だんだんと様になってくるから面白い。基本的な型に始まり抜刀術を経て今は模擬戦闘訓練に至った。察するに、元々この剣には訓練の手順があって、それを明日美が感じとったということになる。
また、その技術を取得する速さは驚異的であり卑弥呼は期待以上のものを明日美に感じた。剣を振る手首のしなやかさ、流れるような身のこなし、絢爛華麗である。まるで剣舞を観賞しているかのように錯覚してしまう。センスがいい。頬をゆるませ見入っていた卑弥呼がおもむろに、
「やっぱり眩しいわね。サングラスが必要かもね」
そうつぶやいたのだった。