2

2度、死にかけた。1歳での敗血症と、3歳になる手術の時。生まれてくることすら危うかった誕生日を入れたら、3度目と言っても正しい。風邪をひくだけで、消えてしまいそうになる命。母は、私を外に連れ出すことが不安になっていた。

「ねえママ、おみせやさんごっこして」

「いいよ」

体調が良くなって24時間の酸素が外れても、私は変わらずに家で過ごしていた。ママと追いかけっこをして、ママとおままごとをして、ママに絵本を読んでもらう。入院中に増えて、退院してまたさらに増えたおもちゃは、ママと遊ぶためのものになった。

「きょうはミニーちゃんとあそぶから、キティちゃんたちはここでまっててね」

ママと遊べない時間は、ぬいぐるみが遊び相手。長い入院生活のおかげか、一人遊びは得意で、「生まれたばかりの赤ちゃん」とか、「川から流れてきた知らない子ども」とか、自分なりの設定をつけたぬいぐるみと一緒に遊ぶ。

「ららちゃん、もうすぐ幼稚園に行くんだって」

「えー、あそべなくなっちゃうよ」

幼稚園なんて行かなくてもいいのにと、幼馴染みのみんなと遊ぶ機会が減るたびに思った。

朝起きたらママがいて、家の中が全て遊び場で、夕方にママやおばあちゃんと外をお散歩していると少しずつ日が沈む。窓の外が暗くなって、夕ご飯を食べ終わると、あと少しでママとパパがベッドの柵を上げて帰ってしまうことを考えて寂しくなる時間が、この生活にはない。

ある日の病院でのこと。入院の時にお世話になった先生と、食堂でばったり会った。そのまま一緒にご飯を食べる流れになって、母と先生は久しぶりにゆっくり話す。最近のこと、敗血症のこと、人混みが怖いこと。私を外に出すことをためらっている母に、先生は言った。

「お母さん、いつかは覚悟を決めなくちゃいけないよ」

母の中で、何かが吹っ切れた。小さな風邪すら不安を感じさせる私は、家に閉じ込めておけば安心なのかもしれない。でも、と母は気づく。これから私が生きていくために、守ってばかりではだめなのだ、ということに。