「……て事は、この惨殺死体を作り出したのはお前の母親って事になるんだが」
「ヒステリックな女だったけど、そこまで病んでねぇよ!」
「お前を捨てた事にも理由があるんじゃねぇの? 桐弥じゃねぇけど、隠し子がいる線も強くなってきたな」
肩をポキ、と鳴らす彼女を、浩輔は暗く睨んだ。
「……誰の子だよ? 母さんと誰の子が、次の海を継ぐ海川家の当主になるってんだ!」
「お前、父親は?」
「……いねぇよ。じっちゃんが親父代わりに、俺を育ててくれたんだから」
――なるほど。桐弥と葬儀人は納得した。
「じいさんが死んで、海川家の財宝は全て母親のものになった。だが、浩輔を捨てた以上、継ぐ者が必要になる。しかし、それはもう既に母親の胎内にいた。……大方、駆け落ちでもしようとしたのか、それとも相手が自分より上の華族世界の人間だったのか――金銀財宝を持ち去るには屋敷の人間が邪魔だったので殺したが、計算外が一つあった」
「それが、君の中に吸収したチンピラの存在だった、という事か」
「見られたと思ったんだろう。慌てて隠れたが、金銀財宝は既に連中に奪われていて、辛うじて意識の残った奴が真相を伝えようとしたが、チンピラ共はそれを殺したにすぎない」
「どういう……意味、だよ」
「てめーの母親は生きてる。海川の名よりも魅力的なものに飛びつき、子供を孕んでる」
「問題は、使用人達のIDカードだな。屋敷のどこかに隠しているであろう。外に持ち出せば記録を上書きされるからな」
「その中にてめーの母親のものがなければ確定だ」
「ッ、そんなのただの推測だろ!」
怒り任せに浩輔は部屋を出ていってしまった。訪れるのは、決して不快な沈黙ではなく、確信めいた空気だった。そして。
「桐弥。一つ頼みたい事がある」
「ほぅ、珍しい。何かね」
「浩輔のIDカードを調べてくれ。一つの可能性が出てきた」
「可能性、かね」
「まだ確信はねーけど、俺の推測が合っていたら……浩輔が捨てられた理由が尤もな事になる」
「まぁ、よかろう。軍としても海を継ぐ名家を放っておくワケにもいかんのでな。部下に調べさせよう」
「早急に頼む」
そして、死体を残して一行は霊安室を後にした。