葬儀屋の居候
「ああ、渡すのを忘れていた。貴族少年」
「え? あ、はいっ!」
「緊急時用で申し訳ないが、貴族世界用のIDカードだ。これを持っていたまえ」
一枚のカードを手渡される。
「こいつらは?」
「彼女らは頻繁に上の世界に行くからな、心配しなくともちゃんと持っているよ」
「で、死体はどこに保管してんだよ?」
「貴族世界の中央司令部だ」
「あの迷宮にも似た中央司令部かよ……こりゃ二~三日は帰ってこれねぇな……」
「食事はこちらで用意する、何か不満でも?」
「死体見たあとに飯食えって? 鬼か、お前」
そんな会話を交わしている頃にはビルを出て、窓からも確認できた広大な空き地に足を進めていた。が、彼女を先頭として栗栖、殺女、蘭軍曹は止まる。その背中にぶつかったのは浩輔だけだったが、桐弥は一人足を進めて広大なガレージ、もとい、広大な空き地の中央に立って、その手を地面に押し付けた。
瞬間、真っ白な光が複雑な言語を地面に描き、円陣のように形作られて上部へと―上の世界へと伸びていく。
「な、なんだ……?」
「桐弥の存在を知ってんならお前も知ってるだろ。奴は、召喚士なんだよ」
「いいぞ、円陣の中に入りたまえ」
その言葉を合図に、皆足を進めて白く光り輝く円陣に入る。慌てて浩輔もそのあとを追い、それを確認してから桐弥は一言だけ呟いた。
「召喚する」
―瞬間、その円陣に入った一同は上の世界に飛ぶ。次に目を開けた時、そこは貴族世界だった。