葬儀屋の居候
「葬儀人。君は、貴族世界に行ったろう。一人の老人を殺す為に」
「―っ、! おい、男女、お前やっぱり!」
「行ったのは七日前だ。スラム世界に戻るには一日半かかった」
「これで六日に絞れた。だが、貴族少年を拾ったのは五日前だと言ったな? 一日の空白がある」
「つまり何か? その一日に、海川家を死体屋敷にして運良く財宝も盗めて、五日待ってスラム世界に落ちたってのか?」
「貴族世界の掟だ。五日間決まった居住区がなければスラム世界に落とされる。だが、後ろの貴族少年は違うのでは? 自らの意志でここに来たような印象を受けるが」
「こいつは、俺の殺したじーさんの孫だ。その遺言書に、この葬儀屋に行けって書いてあったんだとよ」
「ッ!! やっぱりてめぇか!!」
「約束したんだよ、てめーのじーさんと。死ぬ時は俺が殺してやるってよ」
「この……ッ!!」
思わず掴みかかろうとするが、栗栖がそれを止めた。
「じゃぁっ!! てめーが魂を喰ったってんなら、その腕にじっちゃんがいるんだろ!! 出せよ、じっちゃんを!!」
鋭い瞳で、ゆっくりと後ろを振り返る―その仕草に、浩輔は少し怯えた。
「……都合のいい腕じゃねーんだよ。魂を喰う、とは言ったが、それは魂に宿る“悪”の部分だけで、“善”の部分は天に還るんだ」
人は誰もが皆、『善』と『悪』の心を持っている。善い行いをすれば魂は白くなるし、悪行を犯せば黒く染まる。だが、彼女の腕は黒い部分しか吸収できない。
「……お嬢は……悪くあらへん……」
どこから聞こえてきたかと思えば、花魁の着用する着物を引きずりながらパックの牛乳を飲んでいる獣耳の幼女が、浩輔のすぐ隣で否定している。
「殺女、本当の事だ。庇う必要はねーよ」
殺女、と呼ばれた幼女は浩輔のズボンを引っ張っていたが、葬儀人―彼女に言われてからその小さな手を離した。
「では、そのチンピラは偶然居合わせただけで、都合が悪くなったので目撃者だけを殺して財宝を盗み、五日間どこかでやり過ごしていた―と、それが君の考えか」
「お前もだろ。……第三者がいる可能性が高いって言えよ」
「何事も穏便に手早く処理したいのだよ、俺は」
「第三者、見当はついているのかよ?」
「浩輔、といったか、兄弟は?」
「一人っ子、です」
「ならば、何故、海川の次期当主である君の母親は次の後継者を捨てたのであろうな?」
その赤い目が浩輔を突き刺す。だが、浩輔にとっては嘘など語っていないし、責められるのもお門違いだ。
「……隠し子、がいるとでも言うのかよ」
「んなもんいるワケッッ!!」
「それが、一番しっくりくると思うのだよ。死体検分はまだ終わっていないが、当主―君の母親の体は何人子供を産んだか、それも直に分かるだろう」
付き合いたまえ―と、桐弥は腰を上げるが、彼女がそれを遮った。
「昨夜の報酬。まだ貰ってねぇ」