葬儀屋の居候
「それより、今、海川家と言ったか。貴族世界では有名な“海”を名乗る本家、あの海川家で相違ないか?」
「ゆ、有名かどうかはそこまで分かりませんがっ、有名な本家の海川家出身ですっ!」
「お前、緊張しすぎだバカ。俺と態度が全然違うじゃねーか」
「君の本来の地位や立場も知らずに置いているのか」
「めんどくせーから」
「やれやれ。まぁいい、昨夜の連中の“声”を聞かせてくれるか」
「声?」
浩輔の疑問もそのままに、彼女は右腕に装着している黒い布を脱がす―と、見たまま真っ黒な肌が露になった。何かが肌を突き破ろうとでもしているのかボコボコと右腕が波を立てる。あまりのグロテスクさに、浩輔は思わず目を背けた。
「……あれが、通常の人間の反応。言えるワケねーだろ」
「君が受け継いだ特殊な刀で、体に傷一つつけないで魂だけを抜き取る―まぁ、常人には理解できなかろうて」
「分かってて言ったのかよ。それより、さっさと検分しろ」
右腕を差し出し、桐弥がその腕を優しく掴む。
“うああぁぁ~~…俺様の金銀財宝はどこだ~……”
“兄貴~……兄貴、どこですか~~…ここは暗い、暗くて何も見えない……怖い、寒い……”
「これではまともな立件は無理だな」
「俺だって、こんな三下魂いらねーよ。利用する価値もねぇ」
用は済んだのか、再び黒い布を肩まで被せていく。と、彼はソファに置いた書類から何枚か抜き出し、数枚の写真と共に机の上に出した。
「これは?」
「その三下魂が盗んだ家宝と、推測されるその手順だ。全てIDカードに登録されていたものだがね」
「施工会社と偽って数日にわたってとある貴族の家に泊まり込み、屋敷内部を調査……財宝を狙う二人組で指名手配済み、しかし屋敷内部での彼らの動向は不明。だが数日後に屋敷内部からは惨殺死体が発見される……」
「こちらの写真を見てくれるかね」
示された写真を見れば、どれも高そうなお宝ばかりが映っている。
「金塊、王冠、宝石……ふーん、昨夜押収したものだな。これがなんだよ?」
後ろから浩輔が覗き見してくるが、その顔はどこか不思議そうだ。