ヨンミが演奏を終えた。彼女に送られた拍手は長いこと鳴り止まなかった。彼女は椅子から立ち上がり、遠慮がちに、生徒たちへ向かってお辞儀をした。彼女の目がヒョンソクの目と合った。彼女の頬は桃のような淡いピンク色になった。彼女は優雅で華奢であり、首はほっそりとしていて、茶色の瞳は輝いていて美しかった。彼女は二十歳だった。ヨンミの隣に立っていたピアノ教師のチュ先生が話し始めた。

「ヨンミの〈ブルー・ボッサ〉の演奏は、ジャズという音楽ジャンルの卓越性をはっきりと示している見事な演奏だった。彼女は私の娘だ」

チュ先生の言葉に生徒たちは笑みを浮かべたり、笑い声を上げたりした。チュ先生はまた口を開いた。

「では、皆にラグタイム〔主にピアノで演奏されるジャズ楽曲のジャンルの一つ〕の説明をするとしよう。先週少しだけ話したな。だれか練習した者はいるか」

生徒の中で手をあげたのはたった一人だった。

「ジフンのほかにはだれも練習しなかったのか」

返答する者がだれもいなかったので、チュ先生は続けた。

「よくやった、ジフン。先週、短く説明しただけだったが、ちゃんと練習してきたんだな。どの曲を練習したんだ?」

「スコット・ジョプリン(Scott Joplin)〔アメリカ人の作曲家兼ピアニスト。ラグタイムの創始者〕の曲です」

はにかみながらジフンは答えた。

「よし、では聴いてみよう」

ジフンは少し考えて、慎重にピアノに手を置いた。彼は右手で主旋律を奏で、左手でラグタイム形式のシンコペーションのコードを伴奏した。

【前回の記事を読む】楽器を片手に崖へ向かう…美しい演奏を終えた男がとった行動