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開会の言葉や主催者、上席の海上保安官などの数人の挨拶の後、しばし談笑の時間となり、私とリサはひとまずお腹を満たすモードに入った。
「さっきの朝木さん、かっこよかったよねえ」
鴨のスモークを頬張りながらリサが嬉しそうに笑う。
「一瞬で気に入っていたよね」
スパークリングワインのグラスを片手に、私も笑いながら答える。あの優男は朝木さんというのか。
「え、わかる?」
「当たり前よ! リサはわかりやすすぎるから。あ、食べ物取ってくるね。何かいる?」
飲み物だけではさすがに酔いの回りも早そうなので、私は固形物もお腹に入れることにし、色とりどりの食材が並ぶテーブルに目を向ける。そこに見知った顔を見つけぎょっとするが、幸いリサに気付かれた様子はない。
「ううん、大丈夫。私は飲み物を取ってくるよ」
「そう、じゃあ、また後で」
私はいくつかあるテーブルのうちの一つの前に立ち、魚介と野菜のマリネやらローストビーフやらをお皿に盛り付ける。すると斜め前の男性に話しかけられる。
「やあ。調子はどうだい」
顔も上げずに、なくなりかけの鴨のスモークと戦う姿が、言葉の軽さに反比例して必死で、面白い。
「こんばんは。いつ海上保安官に転職を?」
私は驚きを隠して微笑を浮かべ、彼を見る。ポテトサラダを取り分ける彼の表情からは、何も読み取れない。仕事で来たのではないのか。ではなぜ?
声が届く範囲に人はいないが、如何なる状況でも油断は禁物だ。疑問を呑み込み、お皿に何品か盛り付け終わった私の去り際、彼が一瞬顔を上げて微かに頷く。一寸の間視線が絡んだ。その瞬間私は、純粋な気持ちで参加したせっかくのプライベートな時間が終了しそうな予感を覚えながら、少し気を引き締めた。