それにしても鴨のスモーク、人気だな。

軽く会場を見渡してリサを探すと、すぐに見つかった。親友、というフィルターのせいではないと思う、彼女は同性から見てもかなり魅力的だ。人目を引く見た目の華やかさも持ち合わせているが、その上にあのコミュニケーション能力だ。このような場で彼女がモテないわけがない。

案の定、この数分の間に数人に囲まれていた。ただ、さすがというべきか、その中には先ほどからリサが気に入っている朝木さんの姿もあった。ここは……邪魔しない方がよさそうね、と私はお皿に持ったおかずをささっと平らげ、手持ち無沙汰になったのでいったん会場を出てお手洗いに向かうことにした。

会場を出ると、場にそぐわないような小さい子どもと話しているような声が聞こえたのでそちらを向くと、ロビーで電話する男性が目に入った。

「すごいなー、またその写真、送ってね。ところで施設長は元気にしてる?」

年の離れた兄弟でもいるのかな? 話し相手に合わせるような、少年のように無邪気に笑う人だなあ、それにしても施設長って誰のことかしら、と勝手に思いながら、なぜか印象的な顔を横目で見ながら廊下を進んだ。

お手洗いから出ながら、何となくさっき電話していた男性──背が高く、やんちゃそうな顔──を思い出した。そして歩きながらかばんにタオルを仕舞おうと視線を外した瞬間、誰かと肩がぶつかってしまった。私は反射的に謝りながら顔を上げ、言葉を飲み込んだ。

「すみませ……あ」

まさに、私が今顔を思い浮かべていた男性だったのだ。固まる私に、彼が、ぶつかった拍子に私が落としてしまったタオルを拾い無言で渡してくれる。

「ありがとうございます……」

お礼を言うのが精いっぱいな私に、男性は何も言わずに軽く会釈してそのまま私とすれ違うように通り過ぎてしまった。何だろう、さっき電話していたときとは違う、どこか人を寄せ付けないような雰囲気だったな……。少し気になりながらも私は会場へと戻った。

私が去った後に立ち止まり、彼が、

「綺麗な人だったな、まあ、俺には関係のないことだけど」

と、つぶやいたことには気付くわけもなかった。

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