列車から見える神戸の海は穏やかだ。真っ黒の海岸から時々船の明かりが見える。ゆっくり流れるクルーズ船、月明かり、淡路島のシルエット、ここの景色が好きだった。だから住まいもここにした。死んだ娘が「来たい」と言っていた。東野との最後の生活がなかったら、ここに居ただろう。今とは違った人生を送っていたに違いない。
しかし、東野との生活が現在へと続く過程だったのかもしれない。ゲスでグロなブラックジョークは笑えない。きっと彼は病んでいる。そのことに本人は気づいていない。
<件名>病んでないよ~
今日の出張はコンサルしているクライアントからプレゼンを頼まれた仕事でした。
私の話はわき道にそれながら本筋に入るようにしているので、ことりのメールをヒントにして死後の世界とか黄泉の国の話をしてお客様に喜ばれました。
昔から彼は目立っていた。行動力、発言力があり、憧れの存在だった。美術部の発表会の時に彼も参加していた。片づけに時間がかかり帰宅が遅くなった。
「ことりを送ってやってくれ」
と先輩が彼に私のことを任せた。45年前、彼はバイクの免許を取ったばかりで粋がっていた。彼はバイクの後ろに私を乗せた。
「家どこ?」
「太子橋」
「南河内の太子町?」
「違う、大阪旭区の太子橋今市」
「…(知らん)。そこまでは送られへんから、どこまでやったら分かる?」
「天六くらいやったら地下鉄乗って帰れる」
そんな会話だったと思う。二人で喋ったのは初めてだった。バイクに乗るのも初めて。ましてや密かに憧れている男性。
「しっかり持たなあかんで」
「うん…」
「違う、もっと抱きつかんと落ちるで」
彼の背中にしがみついた。何が何だか分からなかった。ドキドキしていた。初めての恋のスタートだった。
<件名>おはようございます
昨日はお客様に大うけで良かったですね。
相原さんは話題も豊富だし、お話もお上手だし、頭の回転は昔から良かったので、きっと人気者だと思います。
何しろ、なにわ朝日高のエンターテイナーでしたからね。
終活っておっしゃるけど、それだけの才能と行動力がおありなら、まだまだ現役で頑張っていただきたいです。
終活と言えば、私は独り身なので、だいぶん前から断捨離をやっています。
残りの人生は自分らしく無理しないで、慎ましやかにと考えています。
人生は面白い、楽しみながら「終活」をやっていきましょうね。