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ピアノ協奏曲第13番K.415/387b
この曲は1782年暮れにウィーンで完成された。モーツァルト26歳。ザルツブルク時代最後のピアノ協奏曲第10番K.365/316a(二台のピアノのための)の完成から約3年半もたっている。ウィーン時代からの輝かしいピアノ協奏曲の傑作の数々がこれから最晩年まで世に出されることになるのである。
大司教の重圧から離れ、父親の干渉からも離れ、自由に羽を伸ばし、青春を謳歌しているモーツァルト。そのモーツァルトがウィーンで安定した収入を得るための手段が予約演奏会であった。そのためにピアノ協奏曲第12番K.414/385p、第11番K.413/387a、第13番K.415/387b(完成は第12番が一番早かった)の三曲を1782年秋から翌年にかけて、予約演奏会用に完成させたのであった。
この三曲はモーツァルトのピアノ協奏曲では特異な存在で、管楽器がなくても第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスの弦四部でも曲として演奏できるように作曲されている。したがって、管楽器なしのピアノ協奏曲として、またピアノ五重奏曲としての録音も多く、室内楽曲としても楽しめる。
このピアノ協奏曲第13番は三曲の中でも管楽器の種類が特に多く、独奏ピアノ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスにオーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニが加わっていて、音楽の響きが大幅に増している。
全体で演奏時間は25分ほどになる。第1楽章は大変勇壮な曲になっている。明るく華麗な曲なので元気が出る。管弦楽の序奏に次いでピアノの独奏が始まる。ピアノは、きびきびとして快活な旋律と穏やかで癒しの旋律の両方を演奏していく。両者の対比が素晴らしい。カデンツァもモーツァルト自身が作曲している。
第2楽章アンダンテは穏やかな癒しの音楽である。優しく甘美な旋律を管弦楽が序奏する。ついでこの主題をピアノが奏でる。ピアノの旋律はどこまでも控えめではあるが、心洗われる美しい旋律である。中間部から、さらに明るく心弾む旋律になる。この第二主題を聴いていると優雅な気分になり、休日の午後にお茶を飲みながらゆっくりとくつろいでいる情景が浮かんでくる。この楽章もカデンツァはモーツァルト自身のものが残っている。カデンツァでは、第二主題をさらにテンポを遅くしていて優美で印象深い。
第3楽章アレグロは軽やかなロンド楽章である。ピアノと管弦楽の序奏から始まる。とても明るい音楽で幸福感に浸れる(明)。そのあと独奏ピアノがアダージョでハ短調の悲しげな旋律を演奏する(暗)。いかにもモーツァルトらしいが、この展開が聴く人をモーツァルトの音楽の虜にしてしまう。なぜこのように悲しくも美しいのであろうか?
その理由の一つは、オーボエの哀切な響きをモーツァルトが効果的に使っているからであろう。聴く人の心に迫ってくるのである。天才の才能にはただただ驚くばかりである。明るく楽しいだけでは曲を終わらせない、明暗・陰陽の魔術師モーツァルトの面目躍如たるところである。
このあと冒頭部の音楽に戻るが(明)、単なる繰り返しではなく、変化をつけている。この楽章もカデンツァをモーツァルト自身が作曲している。このカデンツァでは、ハ短調の悲しげな旋律が再度繰り返される(暗)。やはり単なる繰り返しではなく、悲しさが倍増している。その後冒頭部の音楽(明)に戻り終末を迎える。