ピアノ協奏曲第1番 K. 37(編曲)

モーツァルトはピアノ協奏曲を多く残してくれた。

子供時代から晩年に至るまで生涯にわたって作曲され、その数は単一楽章の曲も含め30作品ほどになる。まさに交響曲や弦楽四重奏曲・弦楽五重奏曲と同じ規模になるのである。ピアノの名手のモーツァルトにとっては、まさにピアノ協奏曲は中核をなす作品群なのである。

私の友人にはモーツァルトのピアノ協奏曲だけが好きでよく聴いているという人もいる。この曲は、そんなピアノ協奏曲の第1作目となる記念碑的な作品なのである。この曲は1767年春11歳のモーツァルトによってザルツブルクで完成された。モーツァルトのピアノ協奏曲第1番K. 37、第2番K. 39、第3番K.40、第4番K. 41の四曲は、父親のレオポルトが息子に当時流行の音楽を主題として与え、ピアノ協奏曲として完成させたものである。

第1楽章はラウバッハ(第2楽章の原曲は不明)、第3楽章はホーナウアーの作品を用いている。楽器編成は、独奏ピアノ、オーボエ2、ホルン2、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスの小編成で、演奏時間は20分弱である。

私はこの作品の第2楽章アンダンテが好きである。管弦楽が穏やかな旋律の主題を奏でる。次いでこの主題をピアノが演奏する。穏やかではあるが、どこか寂しげである。少年モーツァルトはもうこの頃から「悲しいモーツァルト」そのものなのである。この頃から明るさの中に潜む悲しみや寂寥感がある曲が好きであったと思われる。当時の作品を主題に用いているとは言え、天才のひらめきが随所に見られて大変興味深い。

私の愛聴盤はイングリット・ヘブラーのピアノフォルテで、エドゥアルト・メルクス指揮カぺッラ・アカデミカ・ウィーンの演奏である。(CD:フィリップス、DMP-10006、1973年10月ザルツブルクで録音)

上品にしかも情緒たっぷりに演奏していて素晴らしい。第3楽章のカデンツァはヘブラー自身のものである。