ヴァイオリン協奏曲第1 K.207

この曲は1773年4月にザルツブルクで完成された。

モーツァルト17歳の時であった。第三回イタリア旅行から郷里に戻ったモーツァルトが翌年4月に完成させたのである。イタリア音楽の影響を受け、豊かな楽想に満ちた名作となっている。

幼い頃から父親の薫陶を受け、当代一流のヴァイオリニストであったモーツァルトならではの曲である。

この年の末に、初めてモーツァルト独自のピアノ協奏曲が完成したが、このピアノ協奏曲が完成する8ヶ月前にモーツァルト独自のヴァイオリン協奏曲の第一作が生まれたわけで、記念碑的な作品なのである(この前にトランペット協奏曲K6.47cが作曲されたが、残念ながら散逸されてしまった)。

ウィーン定住以来、モーツァルトの演奏家としての興味はヴァイオリンからピアノやヴィオラに移っていくのであるが、これは多分に父親への反発心からであったと思われる。

一点の曇りもない、青春謳歌の作品である。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は第1番から第5番、それに疑作とされている第6番、第7番が残っている。

その他に、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏曲K.364、ピアノとヴァイオリンのための協奏曲K.315f/K.Anh.56、ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲の単一楽章のアダージョK.261とロンドが二作品K.269,K.373残されている。

ヴァイオリン協奏曲第1番はこれらのヴァイオリン協奏曲群の最初を飾る記念碑的な作品である。ヴァイオリン協奏曲は、確かにピアノ協奏曲よりは数は少ないが、内容において決して劣るものではなく、どれも私の宝物である。

楽器編成は、独奏ヴァイオリン、オーボエ2、ホルン2、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスで演奏時間は20分ほどである。

第1楽章は、管弦楽の序奏で始まる。爽やかな音楽で、弦楽器と管楽器の調和も好ましい。その後ヴァイオリンの独奏が始まる。この部分も伸びやかで艶があり、管楽器との掛け合いもとても良い。私は20代の後半から嬉しいにつけ、悲しいにつけ、この楽章をよく聴いている。

私はマウスの皮膚から始め、ヒトの皮膚に至るまで50年間皮膚の研究を続けている。その研究生活の中で最も嬉しかったことは、失敗を繰り返しやっと研究成果を論文にまとめることができたことであった。

さらに、欧米の学術雑誌に投稿し受理された時には飛び上がるほど嬉しかった。その時は本当によくこの楽章を聴いていた。喜びが何倍にも増大したのであった。