「鹿児島第一銀行都城支店でございます」

事務的な、電子音のような声がした。

「中村支店長さんはいらっしゃいますか」

「失礼ですけど、どちらさまでございますか」

「松葉工業の松葉です」

「これは失礼しました。早速お繋ぎします。今しばらくお待ち下さい」

先ほどとは打って変わったやさしい声で詫びた。

「松葉社長さま、すみません、中村は先ほど出かけたようでございます。5時頃には帰るとのことでございますが」

「分かりました。また電話させて頂きます」

「社長さま、帰りましたらお電話を差し上げるようにいたしましょうか」

「いや、結構です。また、こちらから電話させてもらいます」

「そうですか、それではよろしくお願い申し上げます」

猫なで声の馬鹿丁寧さが、いやに耳障りだ。松葉は電話を置くなり、経理部長の佐久を呼んで、聞いた。

「佐久君、今月の資金繰りに大きな変動はないか」

「いいえ、別に、回収も予定通りなので」

「なぜ銀行は返済してくれ、と言ってきたのか、心当たりはないか」

「全然ないですね。外村さんは何もおっしゃっていませんか」

逆に、佐久が聞いてきた。

「いや、別に聞いてないね」

「外村さんは、本部と太いパイプがあるように聞いていましたけど」

「あると思うよ、専務の紹介で出向してきているからね」

「であれば、当然今回の件はご存じですよね」

佐久は、外村に聞くべきだ、とばかりに松葉に言った。

「うん、外村さんに聞いてみよう。そういえば、彼はこの頃たまには支店に行っているのかな」

「行っておられないのではないですか。外村さんが来ていた、という話は聞いたことがないですよ」

「どうしてだろうか」

「分かりません。どうしてでしょうね」

松葉は、佐久の独り言には応えず、資金繰り表を持ってくるように言った。古巣をひっきりなしに訪ねて、先輩風を吹かされて、閉口している話はよく聞くが、殆ど行かない、というのもどんなものか。

お前たちに、頼まなくてよい、頼むことはない、聞きたいことは本部に聞く、ということなのだろうか、もしそうだったら困ったものだ、窓口も大事にして欲しい、全方位外交で行って欲しい、などと松葉が思いを巡らせていると、そのとき、電話が鳴った。

「中村支店長さんからお電話です。お繋ぎしてよろしいでしょうか」

受付の女性からだった。

「はい、松葉です。支店長さん、お忙しいところすみません」

「社長さん遅くなってすみません。社長さんからお電話を頂いていたそうで、すみません。今帰ってきて聞きました」

「わざわざすみません。お帰りは5時頃と伺っていましたので、私からお電話を差し上げようと思っていました。お帰り早々申し訳ございませんが、お時間ございますか」

「今からでも、結構ですよ」

「そうですか、ありがとうございます。それでは、今から伺います」

「お待ちしています」