そして空港での出来事
9月に入ると島から観光客が減り風向きも変わり、二人が別々に行動する時もやってきた。夏の終わりが迫っていることを嫌でも理解した。玲子が離島することになり送別会が開かれた。
「奄美の青い空と海と大地の恵み黒糖焼酎に乾杯」。玲子のいつもの言葉で宴が始まり島唄と六調で盛り上がる。島唄は参加者がそれぞれ十八番を歌う。私は「行きゅんにゃ加那節」。歌詞は、行きゅんにゃ加那 吾きゃ事忘れて 行きゅんにゃ加那 打っ発ちゃ 打っ発ちゃが 行き苦しゃソラ行き苦しゃ。行ってしまうのですか愛しい人 私のことを忘れていってしまうのですか愛しい人 発とう発とうとして行きづらいのです、という意味になる。
そして宴の最後に行われる六調は、奄美大島の踊り歌でもっとも有名な曲。乱舞形式の熱狂的な踊りである。祝典や八月踊りで絶頂になった後、必ずこの踊りで散会する。「エー若松様よ 枝も栄える葉もしげるヨイヤナー 立てばしゃくやく座ればぼたん 歩む姿はゆりの花ヨイヤー」と本土でもなじみのある歌詞で宴の終焉を華々しく飾った。
この熱狂があり、しばらく時間をとって興奮を抑えて最後に玲子の挨拶になった。
「私、この島に来るまで不安一杯だったんです。でも自分のやりたいことは、真と一緒に思い切りやったので思い残すことなく明日、島を離れます。心の引き出しは一杯になりました」
この決意を聞いて参加していた全員が拍手した。