心拍再開

訓練は現場のように、現場は訓練のように。それが、最近の菅平の口癖となっていた。

「まさか、ウチの隊長がこんなに訓練に熱心だとは思わなかったですよ」

消防署の会議室で舞子は水上に話しかけた。

「菅平隊長、ああ見えても、審査会では何度も入賞しているらしいぞ。よし、あと一回、頑張ろう」

救急活動訓練の準備を終えた水上が答えた。

いつも温厚なパグ犬のような顔をした菅平が鬼教官に変貌したのは二週間前。今年度の審査会の想定が発表された日だった。

消防署では、年に一回、救急訓練効果確認、通称「審査会」といわれる救急活動訓練の評価が行われる。消防署内の審査会で選抜された救急隊は、代表として方面の大会に出場し、ほかの消防署の救急隊と、救急活動訓練の完成度を競う。そして、優秀な隊は表彰される。

普段から、一日十件近いペースで現場に出場している救急隊は、出場と活動記録票の記載で精一杯であり、なかなか訓練を行う時間は取れない。しかし、菅平は審査会で勝ち抜くことに並々ならぬ情熱を燃やしており、今日のように一睡もしていない非番でも、「三回は訓練をして帰るぞ」と意気込んでいる。

菅平の訓練指導は、細かいところまで具体的に言及していた。隊員が膝をつく位置やモニターのコードの向き、傷病者に向かう歩幅まで緻密に計算していた。

普段の現場と同じように、臨機応変にやればいいのに……。

睡眠不足と事務処理の停滞で、舞子も水上も疲労の色は隠せないが、四十代のベテラン隊長がこんなに気合が入っているのに二十代の自分たちが疲れたと言い出すことはできなかった。

「準備はできたか? よし、あと一回、気合を入れていくぞ」

菅平が装備を整え、訓練会場に入ってきた。