第1章 巨大隕石落下
月基地司令官のアントニオは10名の隊員を地球に戻すことにした。
このままでは全員が食料不足により全滅することは間違いない。かといって地球に帰還したからといえ生存できるかどうかの保証は何もない。
こんな進退窮まる中で計画は実行された。先行機が飛び立つ。
無事に地球軌道に到達したが、誘導電波の確認はやはりできない。GPS装置も電波を発信していた人工衛星が、地球からの噴石に当たり機能停止している。昔ながらの星座により方位で、おおよその位置を確認して大気圏に突入するが、2年も経っているにもかかわらず視界不良。
電波誘導もGPSでの確認もできない状態で有視界飛行しなくてはならない。
レーダーと高度計だけが頼りであるが、マッハ20以上の速度で飛行しているのだから、減速が進まないとコントロールは不可能である。マッハ6にまで減速した時、先行機の目の前に突然6千メートルもの山が飛び込んできた。
必死に上昇を試みるが、時すでに遅く山頂に激突。月基地では突然連絡不通となり何が起きたかわからない。
連絡不通の原因がわからないまま、10日後に第2機目が出発する。先行機から送られてきたデータにより2号機は本部のある南極大陸をレーダーで確認。
着陸に入るが、着陸すべき滑走路らしきものも何も見えない。視界不良の中であるが飛んでも飛んでも見渡す限り一面の大氷原が続き、都市らしきところはどこにも見当たらない。自分たちが出発した時とは想像もつかない景色が広がっている。
燃量が切れてきた、もうどこでもいいから広そうなところを選んで着陸を試みるしかない。
轟音をとどろかせて、一応着陸に成功する。月基地に着陸成功の一報を入れる。湧きあがる月基地、しかし着陸隊は外の景色を窓越しに見て声を詰まらせた。そこには氷点下40度の世界が待ち構えていたのである。
船内は瞬く間に凍り付いていく。隊員は次々と動けなくなり連絡が途絶えてしまった。火星基地でも、月基地の地球帰還計画が失敗に終わった報告が、全員の耳に入り絶望の暗い気持ちが基地を覆う。
隕石の衝突から2年が過ぎようとしている。地球と火星が最接近するのは1年半後、地球に出発するなら今しかない。
火星が太陽の周りを回る公転周期は687日、地球は365日であるので地球と火星は2年に1度しか接近しない。このタイミングを外せばまた2年間待たねばならないことになる。選抜された6名の隊員が意を決して地球に向かって出発をする。
残るも地獄、行くのも地獄とはこのようなことである。
本来月面基地に立ち寄ってから地球に向かうのであるが、月面基地とはもう連絡が切れ切れの状況になってしまい、直接地球に向かうことになった。
ウサインは月基地から、地球帰還計画に失敗したことの詳細な情報を受けてその内容を分析していたが、その後月基地からは画像データの情報も入らなくなる。月基地の隊員は孤独と絶望による鎮魂のために基地の機能が停止したのであろう。