「いらっしゃい」
事件の翌日だ、やはりお客はほとんど居なかった。テーブルに案内された。飲み物を聞かれたが、さすがにアールグレイとはいかない。セット料金にした。
「貴方、初めてでしょう。近くで変な事件が有ったの知ってる。今日お客は無理かと思ってたわ」
すらっとした容姿で、年の割には若く見え、結構良い女だ。話しぶりと、姿勢良く座ったその雰囲気に、ママかもしれない、そう思った。
「実はそこで殺されたっていう女の人、私の友達の奥さんなんですよ。それで頼まれて、その時の様子を聞きに来たんです。ちょっと教えて貰えますか」
「そう、旦那に頼まれたの。フゥ~ン。まっ、良いわよ」
何か旦那が頼んだ事に、若干の訝しさを感じた様だった。たぶん警察はここで浮気の事などを聞き、成田さんに疑いを向けたのだろう。本名は成田美希、店では美希チャンと呼ばれていた。二十時三十分、腕時計で時間を確認してから、ちょっと店の裏で人が待ってるから、そう言って出て行った。
すると直ぐ裏のドアで、ドンと大きな音がした。ボーイが見に行こうとしたが、ドアに誰か寄りかかっている様で上手く開かない。表から回ってみると、美希チャンがドアに血だらけで倒れていた。驚いたボーイは直ぐ救急車を呼んだ。警察にも連絡した。
「そのボーイさん、居ますか」
ボーイにも話を聞いた。
「刃物は刺さってなかったんですか」
「ええ、もの凄い血だらけで、刃物は刺さっていませんでした」
「そうですか、ところでママ、美希チャンには、何か揉め事とか有りませんでしたか」
「ええそれが、心当たりが無いのよ。あの子はこの仕事が合ってるみたいで、お客の扱いも上手くて、指名も多かったし。ただねえぇ~、旦那に浮気がばれてるみたいだって言ってたけど……」
やはり私の相手をしてくれているのはママだった。何か旦那が怪しいとは言いづらそうだった。私が考えてもそうだ。先ず美希チャンを外に呼び出さなければいけない。スマホはたぶん警察が持っていったに違いない。着信履歴やメールはチェックされるはずだ。電話の主は調べられる。まさか記録が残るメールで呼び出すとは思えない。つまり面と向かって話せる人が怪しい事に成る。ただこれは、夫である成田さんだけとは限らない。浮気相手や馴染み客など色々居る。