【前回の記事を読む】【小説】「妻を殺す方法」をいくつも考えた男がたどり着いた結論とは…?

監視社会の抜け穴

たとえ話

美香チャンが金額を書いた紙切れを渡すと、成田さんはお金を払いに行き、そしてまた戻ってきた。

「すみません、探偵さん。まだお名前を聞いていませんでしたよね。良かったら、お名前とスマホの電話番号教えて頂けませんか」

「良いですよ。名前は松本幸。幸いの幸です。番号は……」

『ポロポロポロ、ポロポロポロ』

「あっ、出なくて良いですよ。今のは私が電話をしましたから。後で私の番号も登録しておいてくださいよ。探偵さんまた会えます」

「時々ここに飲みに来てるから、また来てねっ」

成田さんはニヤッと笑みを返し、店を出て行った。

「また来てね、なんて、小林さんみたい」

「いや、小林さんは、明日もまた来てね、だったよ」

「そうだったわね。初めてのお客さんなの。ほんとにまた明日来てくれると良いんだけど。ところで幸チャン、大丈夫だよ、探偵に成れるよ。面白い話でつい聞き入っちゃった。でも失礼ね、離婚は負け組なんて。バツイチの人が聞いたらきっと怒るわよ」

「いや、あれは犯罪をやめさせようと思って……、だいたい、あんなに堂々と聞いてくる人が、ほんとに犯罪なんかするわけないと思ってさ」

「フフフフッ、分かってるわよ。だって、平凡な家庭が一番難しい事は、私が良く知ってるもの。あああっ、でもどこかに良い人居ないかなあ~。私を元気付けてくれる様な、頼りがいの有る人」

「うーん、仕方ないな~。やっぱり俺が貰ってやるか」

「幸チャン、重婚は犯罪よ」