監視社会の抜け穴

ほんとに成ったたとえ話

「ところで奥さんと浮気相手の写真、有りますか」

「ええ、妻のなら。ちょっと古いけど。お話しした様に、最近は仲が悪くて……、あっ有りました」

見せられたスマホの画像を覗いた。

「幸チャン、どうしたの、ボーとして」

この時私の頭の中のファイルから、昨日電車の中で同じ席に座ろうとした、女性の画像が出てきた。私は相変わらず、女性のファッションの覚えが良い様だ。

「奥さん、ひょっとしてヒョウ柄の服と、レザーのスカート持ってませんか」

「ええ、持ってますよ。お気に入りで、夜の仕事の時には良く着て行きます」

何故そんな事を知っているのか、不思議そうな顔の成田さんを無視してさらに、

「成田さん、ひょっとして家は小岩ですか」

「探偵って凄いですね。こんな写真で、そんな事まで分かるんですか」

「いや偶然ですよ」

私は昨日の電車での事を話してあげた。電車は空いていた。小岩の前の駅から乗ったのなら、とっくに座っているはず。小岩の駅で席に着こうとしたのだから、小岩から乗ったに決まっている。つまり住んでいるのは小岩という事に成る。簡単な推理だ。

いつも通りスマホに、新橋、そして店名の『ロマンス』を入力した。もちろん自分でホームページを持っているバーやスナックは少ない。しかし、組合、お店ナビ、求人案内、個人のブログ、色々ヒットし、直ぐ分かる。昔の探偵は、場所を調べるだけでも一苦労だった。今はIT時代、簡単に分かるし、道順も示してくれる。

新橋の駅からだいぶ歩いた。途中至る所に防犯カメラが有った。今の繁華街は安全安心を謳い文句にして、多くのお客を呼び込もうと、防犯カメラだらけだ。警察もいずれこれらの防犯カメラを調べるだろう。そして不審者を割り出していく。残念ながら、私には防犯カメラを調べる権限は無い。よし、こうなったら警察と競争だ。やる気が増した。

『ロマンス』が在った。時間を確認した。三十分掛かった。待ち時間無しで電車に乗れて、早足で一目散にこの店を目指したとしても、良いとこ二十五分は間違いなく掛かる。確かに成田さんの犯行は難しそうだ。店は周りに建物がびっしり並んだビルの一階。犯行は外だったせいか、店は営業していた。

先ず裏に回り、現場を見た。防犯カメラは無い。犯人は防犯カメラが無い事を知っていたとすれば、下見までしていた計画犯罪に成る。店には裏口が有り、ドアにまだ血痕らしき物が残っていた。こちらから社員や業者など、出入りするのかもしれない。良くサスペンスドラマで見る様なチョークアウトラインは、今は却って現場保存の邪魔に成り、使われない。