突然の終結

ところがここにきて、青天の霹靂とでもいうべきことが起こった。母親ががんだと告げられたのである。ふだんは、重い溜め息をまとったかのような顔つきで来談していたのだが、その日彼女の表情に曇りは見えず、どことなく晴れ晴れとした顔で来室した。確かにカウンセリングが進むにつれ表情は良くなっていたが、こんなすっきりした人だったかな、と思いながら迎えた。

〈今日は少し雰囲気が違うように見えますが……〉

「ええ、先日母が健康診断を受けに行ったのですが……そこでがんが見つかって……びっくりしたというか」

「薄情には聞こえると思いますが、母ががんになったと聞いたときは驚きましたが、今は正直、安堵の気持ちが湧いています。ほっとしたというか、そうですね、一言でいえば、ああこの状態に終わりがくるんだ、ですかね。先が見えたというか。我慢していればいつかは解放されるという希望が出てきました」

「今も毎週実家に顔を出さないといけないじゃないですか、戻るのが苦痛ですと言いましたよね。仕事や研修だと言って、なるべく行かないようにしてたやつです。母ががんと聞いたからといって、もっと会いに行かなきゃという気にはなりません。母の顔を見るのが嫌なのに変わりはありませんから」

「でも、気楽になったのは確かなんです。がんなんだからもっと家に来なさいというプレッシャーは強くなるでしょうね……でも、元気が出てきたように思います。やっと、これでやっていけるという気持ちになりました。何事にも終わりがあるんですね……」

カウンセリングは本人の申し出によって終了した。しかし私の中では、思いがけない中断、という気がしていた。自分の感情に気づき始めた彼女は、この先どうこの事態を乗り越えていくのだろう。