初めての遊園地
最近は雨ばかり降っている。お気に入りの長靴と青い傘をさしてお迎えバスをおばあちゃんと待つ。この頃は幼稚園に行っても皆と外で遊べない。しおちゃんも退院したと思ったらすぐに病院に行っちゃったしお母さんに会えない日も多い。
でも今度の日曜日ジーパンおじさんが僕と珠ちゃんを遊園地に連れてってくれるって約束してくれた。初めての遊園地だ! 楽しみだな。
その日の夜にしおちゃんが久しぶりに家に帰ってきた。僕はしおちゃんを抱っこして鏡の前に立った。鏡に映る自分が不思議なのか僕と珠ちゃんが二人いることが不思議なのか、そんな表情をしていたしおちゃんがふと笑った。初めて見る満面の笑み。小さな笑い声も聞こえる。僕と珠ちゃんは嬉しくて最愛の妹を柔らかく抱きしめた。
約束の日曜日。朝が待ち遠しくて随分と早起きをした。リュックを背負って外に出てソワソワしているとおじさんが迎えに来てくれた。今日もジーパンが格好いい。いとこのお姉ちゃんも一緒だ。
お母さんと抱っこされたしおちゃんが見送ってくれる。覗き込んだしおちゃんは太陽が眩しいのか目をぎゅぅっと閉じていた。僕は柔らかなほっぺをいつも通りにツンツンして車に乗り込んだ。
車の中で皆といっぱい歌っていたらあっという間に遊園地に到着した。乗りたいのは観覧車にメリーゴーランドにゴーカート。珠ちゃんはジェットコースターに乗るって言ってたけど僕は怖くて多分無理。そもそもちっさいから無理だねっていとこのお姉ちゃんに言われた。
お化け屋敷はどうかな? 夜寝れなくなるって言われたからやっぱり無理かな、なんて考えながら飛び跳ねてゲートをくぐった。中はとても広くて楽しそうな乗り物ばかり。中心に大きな池があって白鳥のボートがあっちこっちでゆらゆらしている。大きなスピーカーからウキウキする音楽が流れている。
皆で手をつないでまずはゴーカート乗り場に向かおうと歩き出すと音楽が止んで園内放送が響いた。
「お呼び出しをいたします」
迷子を探す時に使うやつだ。僕はお調子者って皆に言われるけど迷子になったことはない。でも放送では僕の名字が呼ばれてる。手をつないでいたジーパンおじさんがここで待っててと言って走っていった。僕たちは木の下のベンチに並んで座って園内マップを見ながら待った。
おじさんが走って戻って来る。なんだか顔が怖い。
「すぐに帰るぞ」
訳も分からないまま僕たちは今来たばかりの遊園地から車に戻った。残念で泣きたくなったけど空を見て堪える。いつの間にか太陽は雲に隠れていた。
おじさんが車で向かったのは家ではなくて家の近くの大きな病院だった。珠ちゃんと僕の手をつないでくれて看護師さんに案内されて暗い廊下を歩いた。ぼんやりと明かりのついた部屋の前でおじいちゃんとおばあちゃんが待っていてくれた。二人は何も言わず僕の頭を撫でてから優しく背中を押す。
扉の向こう……ゆっくりと近づく。小さいベッドが部屋の真ん中に置いてあって、その上には白い服を着たしおちゃんが眠っている。その横ではお母さんが大きな声で泣いていた。