セザンヌ 「サントヴィクトワール山とシャトー・ノワール」
セザンヌの青は独特の青で、特殊な空間に入り込むような特別な安らぎの中に溶けてしまう。
大きめのポストカードは、いつも静謐な世界に誘い出してくれる。
レオナルド・ダビンチ 「聖アンナと聖母子」
ルーブル美術館で「モナ・リザ」を観た時もドラクロアのジャンヌダルクの絵を観た時も、美はやはり祈りだと思った。特に聖アンナとマリアの母なる者の表情。マリアが身に着けている衣の青に出会った時、あの神秘体験に現れた青のような気がして立ち尽くした。もう一度あの絵に逢いたいと願っている。
四十五年ほど前、東京から祇園祭りを見るために京都に行き、河原町の画廊に入ったことがあった。ロワール川の畔の古城を描いた絵に一目ぼれをした。中世美術の教会を彷彿させる青い古城の屋根に魅せられどうしても欲しくなった。値段は八万円で、そんな大金を持っていなかったが、知人にお願いし何とか工面しその絵を購入した。そして、作家名も聞かず、抱きしめるように東京に帰ってきたことがあった。私はかなりクレージーであった。あの頃は、ジョサイア・コンドル(イギリスの建築家)に夢中になり、ニコライ堂や建造物をよく見て歩いていたりもした。
そして、つい最近驚くような本に出会った。題名は『青の美術史』。
著者の小林康夫先生は、哲学・表象文化論の第一人者でいらっしゃるらしい。どの解説も納得ができ、夢中で拝読した。私の二十代の週末は、ほとんど絵や陶芸を見ることに費やしてきたのだが、そのような時の過ごし方も必然だったように思えてきた。ヨーロッパの中世の人々の生活は、教会を通じて超自然的生命にみずみずしく浸透されていた時代だったのだろう。青は聖なる色であり、天空・宇宙を現す色。存在からの自由と超越の青を発見する旅だと書かれてあるのだから。キーワードは、やはり光である。
こんな研究をしていらっしゃる方がいらしたなんて……。人生にはこのような恵みが待っていたのかと、小林先生との出会いに感謝した。