「諦めたか。それも良かろう!」
蟲が恭子を四方から襲い、無数の顎が迫った。恭子は滑る触手の一つを掴んだ。
途端―。
「があああああああああああああああああああ!」
ガマガエルが仰け反り、咆哮を上げた。全ての触手も電撃を受けたかのように宙に硬直した。
何が起きたのか。
ガマガエルはばったりと昏倒した。
恭子は一撃目で、触手の粘液から男の生体エネルギーを感じ取っていた。粘液を通じ、蟲の生体エネルギーは吸い取らずに、男の生命を吸い取ったのだ。蟲を切り離す時間も与えずに。
恭子は新たなスキルを獲得した。自然に笑みがこぼれ出る。もう戻れない。私は戦闘の快感を覚えてしまった。
「敵を倒す事が出来たそうだな……」
「はい」
恵比寿顔と男が話している。
前回と同じ部屋。
男はやはり背を向けたままだ。先日とは違い、今は革張りの椅子に座っている。
「しかも相手はあの『蟲使い』だというじゃないか。もう、実戦に投入しても良かろう。幸い、そのような案件もある」
「しかし……」
「君の言いたい事は解る。しかしまず、我が国のために彼女の力は必要だ。それに、あの育成施設に彼女が居るとバレたのだから、居所が掴めないように、一度消息を絶つのが良いのではないのか?」
恵比寿顔は答えられなかった。男の言う事はもっともだからだ。しかし、それは自分の管理出来ない場所に恭子を移す事になる。男の言う案件に見当が付くからだった。それは、海外での任務となる。
彼女の意思を確認し、男の言う条件を彼女が呑むのであれば、私に止める力は無い。
恵比寿顔は、そう覚悟した。
後日、恭子の消息は途絶え、そのまま数年が過ぎた――。