【前回の記事を読む】【小説】コロナ禍の中、オンラインで「追悼会」が始まった…
プロローグ
オンライン追悼会
「実はこの会に喪主である斉田夫人、清美さんにご出席をお願いしたかったのですが、体の調子がよくないとのことでご欠席です。誠に残念ですが幸いご家族代表としてご子息の晃さんとお兄様の斎藤潔さんがご出席ですので、その辺りから始めていただいて故人の思い出話やエピソードなどをお話ししていただけると有り難いのですが」
一番に指名された斎藤潔は礼儀正しく名前を名乗って挨拶をした。彼は斉田寛の実兄で前衛画家である。日本とアメリカで活躍していて、その作品はアメリカの現代美術館や、日本では地方都市の美術館などに飾られている。愛知県のとある市の会館のロビーに掲げられた三百号のアクリル画、滝に似た白い筋が幾重にも画面を流れ落ちる『イグアス』はよく知られている。
斎藤潔は普段はニューヨークと東京で半々の生活を送っているが外出規制が敷かれる中、政府が緊急に用意した現地在留邦人帰国支援の特別便でニューヨークから帰国した。彼のアトリエのある奥多摩からの参加である。
「斎藤さんはコロナウイルスのせいで急遽ニューヨークから帰国されたと聞きましたがさぞや大変だったでしょう?」
潔氏はうなずいて、「この三月まで僕のいたニューヨークは一時全米で最も感染率、死亡率が高く町はロックダウンされて一時はどうなるかと思いましたが無事帰国出来てほっとしました。帰国後は空港でPCR検査を受けて自宅で自己隔離していました。一週間で結果はネガティブと出たんですがやはり二週間は人と会ったり出歩いたりしませんでした。
アトリエは田舎にあるのでその点はいいのですが何しろ家族とも顔を合わせることが出来なくて苦労しました。アトリエで寝起きしてドアの前に食事を置いてもらったりしてね。昨年暮れに弟が亡くなった時は僕はニューヨークにいて葬式に間に合いませんでした。せめて追悼会には出ようと思っていましたが、こんな形での参加になるとは夢にも思いませんでした」とここまでが前置きだった。