第一章 二〇一九年(令和元年)春
1 「寿限無号」で過去へGO!
まずは「寿限無号」での旅が終わったところから、お話ははじまります。どうぞ最後までお付き合いのほど、宜しくお願い申し上げます。塚田涼平は時間旅行を終えた後、参加者から称賛の声を聞くとホッとする。
「いやあ楽しかったですわ。タイムマシーンでの旅行はええもんですね。よくぞタイムマシーンを発明してくれはりました」
顔全体に笑みが広がる。芋の煮っころがしに例えられる丸い顔がよりいっそう丸く見える柔和な笑顔だ。涼平には参加者の好意的な感想が何よりの幸せ。このツアーをやっていて良かったという思いがより強くなる。
「一番嬉しかったのは、無事、現代に戻ってくることができたことかなあ」
「ホンマや。実はそれが一番心配やってん」
「そうそう。このツアーの一番の不安点がそこやったからな」
参加者から懸念していたことへの言葉が次々と飛び出すが、その表情はいずれも明るく満足げだ。
「その点については最初に申し上げた通りです。安全性に関しましては一番気を付けておりますので」
至極真面目な顔で返答する。涼平がおこなっているビジネス。それは「寿限無号で行く! タイムマシーン思い出ツアー」。
『今も思い出す懐かしい日々、懐かしい場所!』
『そんなあの時、あの場所へ、タイムマシーン寿限無号がお連れします!』
『さあ、あなたも時間を超えた思い出の旅へと出かけてみませんか!』
パンフレットやホームページのツアー紹介にはそんな文言が書かれている。涼平はこのツアーの企画発案者でありツアーコンダクターを担当する。今年、五十七歳。さらに案内役もいる。「寿限無号」の名が示す通り落語家が務める。桂理之介(かつらりのすけ)。涼平と同じ五十七歳。芸歴三十三年。
「寿限無号で行く! タイムマシーン思い出ツアー」の今回の参加者は大阪市内の小学校の同窓会メンバー。今年が卒業三十年にあたることから何か今までとは違う趣向で……と、幹事がこのツアーに目を付けてくれた。タイムトラベルのリクエストは一九八九年、平成元年。小学校六年生の時へ旅するという依頼だった。集合場所はJR大阪駅桜橋口。参加者は二十人余り。マイクロバスが用意されていた。
「さあ、皆さん、これがタイムマシーンの『寿限無号』でございます。どうぞ、ご乗車くださいませ」
案内役の理之介が参加者に声をかける。噺家らしく着物姿だ。涼平も一緒に乗り込んだ後、理之介が改めて参加者に挨拶をする。