東野が亡くなってから自分の身辺がすっきり綺麗になった気がした。もう誰と付き合うこともないだろうし、誰かを愛することなどありはしないと思っていた。

でも、心のどこかでありのままの私を大切に想ってくれる人がいて欲しいと思うこともあった。

そんな矢先の彼からのメールは何なのだろう。

「あれ、独身? だったら、お食事などお誘いしてもいいのですか?」

そう来たか、何か先方さんえらい話が早い展開じゃないか。そっちは奥さん、子どもがいることくらい私は前から知っているし、やっぱり何か魂胆があるに違いない。

一回だけ食事に行って、「実はお金が……」とか、「妻とは上手くいっていない」とか。私、しっかりしなくては……。

会ってみたい気持ちはあるが、お互い歳を取り過ぎて、昔の面影もなく幻滅するのも嫌だ。それとも彼に今の私を見てもらって、幻滅させるのはどうだろうか。

「勤務先の病院のホームページに私の写真が載っています。こんなオバさんで大丈夫ならお誘いください。」

現実を見たら思い直すかもしれない。最後に会ったのは37年前だからスタイルも良かったし、何しろ若かった。

「拝見させていただきました。初心を貫いて部長さんですね。さすが~ 全然変わってないですね。お住まいはこの近くですか?」

何を言っているのだろう、私は初めから部長になるつもりなんてなかった。あなたが「婦長(師長)になったら会ってやる」って言ったから、いつのまにかこの立場になったのです。全然変わってないことなんてない。もうすぐ62歳のババァです。

こうやって調子のいいことを言って、自分のペースにもって行こうとするやり口なのかもしれない。

「お住まい」は病院の近くだったけれど、諸々の事情で転々としたのです、と言いたい。電話番号を教えた森本君は彼のクラスメートで、森本君と私は同じ美術部だった。

森本君とは卒業以来、年賀状のやりとりだけで40年くらいになる。森本君は私の電話番号を教えたが住所までは教えなかったようだ。