さてあなたとの出会いを演出してくれた喫茶“ニューグランド”は、沖縄や鹿児島、大阪への大型船が発着する奄美大島名瀬港の正面にあった。この喫茶店で気さくな女店主から、地元の人が、”ばしゃ山“と呼ぶ奄美大島北部のリゾート地にある民宿を紹介され、目の前に広がる透明な海で泳ぐ。
足の届くところに珊瑚が群生し、深さに依存する碧いグラデーションの海には赤や青の熱帯魚が泳いでいた。あたかも自然の水族館にいるように。それでもウミヘビを見た時は身構えたが、それも白砂と珊瑚、そして色鮮やかな魚が泳ぐ海に息をのんだ。沖合には珊瑚の群生がリーフとなりそこに打ち寄せる波が「ドスーンドスーン」と響いた。
砂浜にはハマナスやハイビスカスが咲き乱れ海と絶妙な雰囲気を醸し出す。もちろん、夜は満天の星がビーチを覆い『都会では、どこにこんなにたくさんの星が隠れているんだ』と心で叫んだ。さらに島の人は優しく、私が苦痛に思うほどに面倒を見てくれた。
海で遊んでいると地元の人が話しかけて来て、珊瑚石で囲まれた小さな家に案内され、酒盛りそして泊めてもらったこともあった。島の人は本土から来た人々を奄美の神様が住むネリヤカナヤから来た人、幸いをもたらす人といって歓待してくれた。
私はこのような未知の、異次元の風景に魅了され予定の一週間を過ぎても、この島を離れ難く夏休みの間、民宿を紹介してもらった喫茶店でアルバイトをしながら島に残ることにして、一段と心は和らいだ。
奄美大島は、日差しは厳しいが柔らかい太陽光線があり街を歩き路地に入ると、島の女達の機織りの音がそこかしこから聞こえてくる。「ガタンガタンガタンガタンガタンガタン」と、リズミカルで優しい音色が耳に心地よく響いた。