【前回の記事を読む】幼少期の辛いイジメ被害「言葉の暴力は一生心の傷として残る」
第一章 傷を負った者達
子供時代の僕は精神的な苦痛を強いられたイジメの他に肉体的にも苦しかった。それが喘息だった。
毎週日曜日になると喘息をこじらせていた。日頃から吸引器は手放せず、喉にタンが詰まったら吸引器を吸う。吸引器は即効性があって、吸引器を吸うと喘息が一発で楽になるのだが、吸引器は心臓に悪いらしく、出来る限り吸引器を頼らないようにしていた。しかし、何故、日曜日かというと日曜日は学校が休みなので僕は家にいるからだ。
問題は母が掃除が苦手なため散らかり放題で、父の言葉を借りると足の踏み場が無いことだった。いたるところに服が散乱している。喘息持ちにとって埃は天敵、そんな環境なので毎週発作で息が苦しくなる。
いつ発作が起こるかわからない恐怖はなんと例えたらいいか? 例えば、ジワジワと首を締められたあと一気に首を締めあげられて息が出来なくなるような感じだろうか? 普段当たり前のように吸っている空気が突然制限されたらどう思うだろう。
当たり前の呼吸が当たり前に出来ないのが喘息である。本当に普通に息が出来ることは幸せであると、通常時には感じていた。大発作が襲ったら、もう、指一つ動かせない。布団にうつ伏せになって少しでも息がしやすい首の角度を探して浅い呼吸で息を吸う。その体勢から寝返りをしたらたちまち息が苦しくなって、呼吸が出来なくなる。だから、文字通り体を動かせない。
それでも、生理現象が起きたら体を動かさなくてはいけないが、浅い呼吸で数メートル先のトイレに行くのは空気が薄い山頂に登る以上に困難極まる作業になる。もし、喘息でトイレに行くことと健康な体で山頂まで駆け足で登ること、どちらかの選択を迫られたら僕は間違いなく後者を選んだだろう。それくらい辛かった。