【前回の記事を読む】父親とのキャッチボールが苦痛だったが…大人になって気づいた「父の気持ち」
第一章 傷を負った者達
毎晩のように父は母に怒鳴る。母は自分に落ち度があることはわかっているので反論できず、ただぶうたれた顔で渋々部屋を掃除する。そのあと、父に晩御飯を用意する。そんな家庭に何の未来を抱けるか?
ただ、社会人になった今なら父の気持ちも理解は出来る。会社では嫌な上司にへつらい、部下には気を遣う。神経がすり減り、憩いの場である家庭に帰れば家がゴミ屋敷。そんな生活耐えられるだろうか?
どんな寛容な精神をもってしても神でない限り小言の一つも出るだろう。父の繊細な精神には耐えられなかっただけである。父に同情の気持ちが湧いてくるが、当時の僕は父が嫌いだった。
父が食べるときにたてる箸と食器のぶつかる音。
食べ物を食べるときの咀嚼する音。
すべてが嫌いだった。僕にとって結婚とは地獄である。よくある、ドラマやゲームにある、男女が付き合ってハッピーエンドで終わる恋愛ドラマを見ると鼻で笑いたくなる。
現実は男女が付き合ってからその先にある。純粋な愛も時間は許してはくれない。お互いの皮が剥がれ、醜い獣が牙をむく。互いの欠点を罵り合い、傷つけ合い、恨み合いお互いが空気になっていく。そして、互いが必要となくなり消滅する。最悪、殺人にまで発展することもある。
寒々とした空気が家庭の隅々まで流れていく。二人はそれでいいだろう。しかし、そんな二人に挟まれた子供はどうすればいいのだ。
身の置き所はなく汚い部屋の隅で泣けばいいのか?
喚けばいいのか?
助けてと家を飛び出すか?
心が壊れれば満足してくれるのか?
そうすれば両親は自分達の行いを反省して初心にかえってくれるだろうか?
次第に心はすり減り目からは光が失われていく。性格はゆっくりと暗くなっていった。幼稚園の頃は先生も手を焼くワンパクな子供だったのに次第に大人しい子供になっていく。
変わったつもりもないのだが周りも次第に距離をとるようになるし僕も周囲と距離をとるようになる。中には鼻の利く物好きな連中もいてイジメの対象にする。名誉あることに彼らのお眼鏡にかなったらしい。人の気も知らずにおめでたい連中だ。彼らは娯楽に飢えているのだろう。適当に相手をするとさらに調子に乗ってくる。
もう、溜息しか出ない。本音を言うと馬鹿かと何度も思った。