【前回の記事を読む】人間の言葉が分かる類まれな猫の俺が、悔しくてたまらないこと

第三章 にゃん太郎の毎日

首輪を付けるなら輪ゴム製がいい

小林さんは俺のことをノラ猫と思っていた。それは、きっと、俺が首輪を付けてなかったからだ。

俺が今、首輪を付けていないのは一時的なある事情があってのことだ。例の猫好きの人の話だ。

知人のうちの猫が、棚に飛び上がろうとした時に、壁から突き出ている長い釘に首輪が引っかかり、猫は首吊り状態になって、死んでしまったそうだ。全く悲惨な話だよな。

猫は飛び上がる時、飛び降りる時、疾走する時、前足と後ろ足を力いっぱい蹴りだし、体を引き伸ばすので、細身になってしまうだろ。すると首回りと首輪の間に隙間ができて、その隙間に細い釘とかが引っかかるのだ。その悲惨な話を聞いた頃は、俺も首輪を付けていたので、榎本さんの奥さんは甚いたく心配して、俺の首輪を外してしまった。

小林さんちに通ってた時も、そういう訳で首輪を付けてなかったんだよ。榎本さんの奥さんは安全な首輪を作ろうと、しばらくの間考えていたが、ある時「輪ゴムで作ればいい」と閃いた。

輪ゴムを鎖繋ぎで繋いで首輪を作るんだ。輪ゴムだと、釘などに引っかかった時、猫の体の重みでビローンと伸びてしまうから、猫の首が締めつけられることはないと考えた。また、輪ゴムは猫の体を吊り下げるほどの強さはない。猫が着地する前に伸びきって切れてしまう筈だ。

それで、俺は、今は、輪ゴムの首輪を付けさせられているんだ。付け心地はいい。首輪を付けていると感じないんだ。市販の首輪は、材料は綿、皮、ポリエステルが多い。

また榎本さんの奥さんが心配したのと同じ理由からか、ゴムが織り込まれたものもある。それに、幅も15ミリくらいあって、付けると負担感があって俺は嫌いだ。首吊り状態になることを避けるため、現在は、セーフティバックル付きというものがある。首輪に力が加わると、自動的に首輪が外れる仕組みになっている優れものだ。それなら安全かもしれない。

が、機器のことだ。絶対に故障しないという保証はない。やはり。輪ゴムの首輪のほうが安全だ。それに安価だ。

首輪にはGPS機能付き電子タグをそもそも何故、猫は首輪を付けるんだろう。犬は放し飼いにはできず、リードと繋ぐから首輪は必要だ。猫はリードで繋がれて、散歩するなんていうのは少数派だ。猫はふつうは繋いで飼わない。

では何故、猫に首輪を付けるのか。猫は全身が毛で覆われている。それは人間が衣服をまとっているのと同じだから、その上にさらに何かを付ける必要はない。ノラ猫は何も付けていないが、それでも生きていけるし、不自由なことはない。猫が一人で生きていくのなら、何も付ける必要はないのだ。

当たり前過ぎるけれど「飼い猫だから」というのが理由なのだ。飼い猫におしゃれをさせて、より可愛く見せたいという飼い主の欲、エゴだと思う。首輪には迷子札や鈴を付けられるから便利でもある。体に色々なものを付けられるのは、猫としては気持ちのいいことではない。

だが、飼い主はやたらに何かと付けたがる。首輪や鈴や迷子札を付けるのなら、負担感のないものがいい。