「物探しの達人」としての貢献

俺は金喰い虫で苦労ばかりかけている、と自戒したけれど、よくよく考えてみると、必ずしもそうばかりではない。けっこう、役に立つこともやってあげている。もっと自信を持ってもいいんだと思えてきた。

俺は人間の言葉を聞いたり、文字を読んだりすることができるだろ。だから社会や近隣で起こっていることや榎本さんちで起こっていることは、だいたい分かっているんだよ。榎本さんちで困っていることが起こると、俺も奮起して、助けてあげようと出動することがあるんだ。

ある日曜日の朝、榎本さんの奥さんが「私の一番好きなブローチが見つからない。金色の葉に真珠が一つ乗っかっているの。あなたは見かけなかった?」「確か、昨日まではセーターに付けていて、あったのに。どこでなくしたんだろう?」「昨日は外出してないから、必ずこの家の中や庭にある筈」などと言って騒いでいた。

そして、化粧台の引き出しやソファの座面と背もたれの間の隙間、戸棚と戸棚の間の隙間など、家中を必死になって探し回っていた。庭も隈なく探していた。

その様子に同情した俺はブローチ探しを手伝おうと思った。猫は背が低い。床からせいぜい15センチくらいの高さしかない。だが、これは床や地に落ちているものを見つけるのには便利である。

俺は奥さんが昨日の夕方、庭の手入れをしていたのを見た。そこで庭に焦点を当て、集中的に探すことにした。地を這うようにして探すこと1時間余り。「あった!」。ビオラの最盛期で、こんもりと繁った花の根元に隠れるように落ちていたのだ。上からビオラを見下ろしても見つかりはすまい。

俺は真珠のブローチを口にくわえて、奥さんの所へ心弾ませ持って行った。奥さんはブローチ探しで疲れたのか、ソファにぐでーんと座っていた。俺が土のついたブローチを口にくわえているのに気がついて、「どうしてにゃん太郎が私のブローチを持ってるの?」と歓喜しつつも、見失ってしまったブローチを、猫が持って来たという珍現象に戸惑っている。

「猫がブローチ探しのことを知っている筈はないし」と不思議がっているだろうな。俺が人間の言葉が分かるなんて、考えもしないだろうから、理解できなくて当然だ。まさか俺が盗んでいったとは思わないよな。盗んだ物は隠しておくもので、わざわざ見せに行く馬鹿はいないからな。

きっと「にゃん太郎が珍しい物を見つけたので、飼い主のところへ見せに持って来た」という見解に落ち着くのだろうな。その後も小物探しが度々あった。榎本さんの車のキー、奥さんのイヤリングや鎖のネックレスも俺が出動して見つけてあげた。なくしたものを何度も見つけて、持って来るので、珍現象はさておいて、にゃん太郎は「物探しの達人」と評されて、重宝がられてもいるんだ。エッヘン。