【前回の記事を読む】「自分は父親を知らない…」母の余命を突きつけられた男の懊悩
すずさんへの余命宣告
「あら洋ちゃん。またここで隠れんぼ?」
スーパー帰りのおばさんに声をかけられる。お母さんは苦笑いで頭を下げる。多分お母さんが知らない向かいの棟の六階の人。
そんなお母さんを横目に僕はコンテナの横に置いてある自転車にまたがってペダルを思いっきり漕ぎ始める。
「どこ行くの?」
慌てて後ろから追いかけてくる声。
「ひーろーばー」
「遠く行っちゃだめだよー」
「はーい」
手に負えないとはこういうことを表すのだろうか。とにかく体を動かしていたい僕はがちゃがちゃと補助輪の音を立てて広場へ急いだ。
ブランコとジャングルジム、砂場にシーソー。毎日来る僕の遊び場。ここでは全てが自由。毎日する遊びは違うし遊ぶ子だって変わる。もちろん仲良しになった子もいるけど団地にいると名前も知らない子と遊ぶことも多い。今日は誰がいるかなぁっと自転車から飛び降りた。カゴからスコップとバケツを取り出し砂場に走る。すると一番会いたかった先客がいる。
「くみちゃーん」
「ようちゃんだ!」
おさげの女の子がこっちを振り返り大きく手を振る。今は真ん中で遊んでいるグループとは離れた隅っこでお山を作っているみたい。その近くにはくみちゃんママが立っている。
「洋ちゃん、こんにちわ。あれ? お母さんは?」
「もーすぐくるよー」
くみちゃんとくみちゃんママは僕と仲良し。毎日広場で遊んだ後は五階の僕の家から七階のくみちゃんの家に遊びに行く。くみちゃんのお兄ちゃんの浩ちゃんと僕のお姉ちゃんの珠ちゃんも仲良し。四人でよく夜ご飯を食べて一緒にお風呂に入って迎えが来るまで遊んでる。時々そのまま朝まで寝てることもある。