【前回の記事を読む】「【気がつく】と【気が利く】【気が回る】って意味が違うの」
明日の私と私の明日
「自分で決めてやった事は、全部自分に返る……って事ですね」
「うん。どんな結果も自分が決めた。誰かのせいにしないで、一日に五分でも誰かを想って生きる、それがいつか自分にも返ってくれば、たとえ綺麗事、ユートピアだと言われても素晴らしい世界に変わっていくと思う」
「そしたら、さっきのように無関心な人が少しでも減るかな……。その人達のものの見え方が変わって」
「そうね。思いやりというものが目に見えないのだとしたら、それはきっと心の中にあるからじゃない? そして心は必ず全ての人にある。なぜか、尊いものは常に見えにくくて、見つけにくい。ずっと、心の宝箱にしまってないで、優しさという宝石はどんどん人に見せなきゃ」
里香の言葉は一つ一つが温かくて、佳奈も誰かに話したくなる。こくっと小さく頷いて、佳奈は椅子の背もたれに寄り掛かった。
「人は必ず、何処かで繋がっているものだから」
里香は、これまで出会った人達に感謝しているように言った。この女性は、これまでどんな人達と出逢い、どんな言葉を交わしてきたんだろう。また逢いたいと思ってもらえるって凄い事だ、と里香に憧れた。
「里香さんはきっと、素敵な人と結婚すると思います」
佳奈はボソボソと恥ずかしそうに言った。
「そう? そうだといいなぁ……。私はね、雨の日に敢えて歩こうって言う人が好きなの」
「何ですか、それ?」
佳奈は久しぶりに笑った。里香もつられて、一緒に笑った。
「ちょっとぉ〜、真面目に言ったんだから笑わないで。要は、大変な時にあともう少し頑張ってみようって、背中を押してくれる人って事ね。そういう人はきっと、険しい山頂から見える素晴らしい景色を知っているのよ。そして多分、お互いもっと高いステージへ上がろうと導いてくれる人だと思う」
里香の言葉は迷いがなく、そして強い。強くなっていったのかもしれない。人に接するのと同じように、自分にも丁寧に向き合っている。時間を、自分を、今を、大切に生きている。険しい山頂からの景色を知っている人は、その人もまた大変な思いをした人という事だ。きっと、人の粗探しなんかしない、自分の非も認める事ができる人なんだ。
佳奈が少しずつ、数ある大人への階段の選択を見極め始める。